シーン3

どれだけあるいたかなんて、僕にはわからない。どこに向かってるわけでもない。
ただ、フラフラと行き先のわからぬまま足を動かす。
気が付くと、僕は大きな木の下に座っていた。
もう、疲れていた。だから、、、でも、違う。きっとここには僕がくるべき理由があったんだ。
きっと、ことみちゃんも、ここにきたかったんだと思うから。だから、、、

大きな木の下で

ある晴れた日。外は、カンカンに日が照っている。でも、僕は涼しいところにいる。
この場所は、僕とことみちゃんの、特別な場所。
あれからも、気が付けばここにいる。まだ、心の中では整理がついていないけど。
でも、ここにくると、ことみちゃんに会えるような気がするんだ。
きっと、それはただの思い違いなんだろうけど。まだ、僕はここにいないといけない気がする。
なぜだか、わからないけど。。。

ある日、僕がその場所にいくと、女の子が座っていた。いつか僕に笑顔で接してくれた子。
僕は、なぜだか隣に座っていた。読書をしている。僕には気が付かないみたい。
それでも、僕はよかった。女の子は、一区切りつくと、僕の方を向いて軽く微笑すると、
どこかへ消えていってしまった。
僕の中の、何かが少しやわらいだきがした。

「ぷるるる、ぷるるる」ん?今何時だろう。「ぷるるる、、、」「はい、もしもし?」
「誕生日おめでとう」え?誕生日?あ、そーか、今日は僕の誕生日だ。
智恵が、僕に電話をかけてきてくれた。この思いがけないことが、僕にはとても嬉しいことに思えた。
今まで、なにも考えていなかった、僕は、少しずつ前を向いていけそうな気がした。
「智恵、ありがとう」

明るい影

僕は、また夢をみていた。君とあうのは、これで何度目だろう。
「君は、僕のこと、どう見える?」彼はそうたずねた。
「君は・・・」たしか、少年だった。そう、僕が覚えてる君は少年だった。
でも、少し成長したようにも思える。「少し大きくなった?」
「そうだよ、僕はね、、、君の記憶なんだ。だから、、、」
そういうと、またいつものように、目が覚めた。なんだか、背中がぐっしょり濡れてる。
もう、女の子の夢は見なくなっていた。たぶん、ことみちゃんがいなくなったから。
きっと、そうだと思う。僕の中の、何かが消えてしまったのが分かったから。。。

「ぷるるる、ぷるる」あれ?切れちゃった。なんなんだろうなぁ。「ぷるる、」
ん?あれ?何だ、いたずら電話かぁ?
「ねーねー、またいたずら電話があったよ。久しぶりだねー。」
「え?あれから、ずーっと続いてたよ。知らなかったの?」
え?嘘。あれからって、、、だって、あれは相川じゃなかったの?
「ぷるる」「ぷる」「ぷるるる」、、、なんだ?これは、、、

「もしもし?まりあくん。私、聖子。覚えてる?」なんだ、珍しい。なんかようかな。
「あのね、先生に聞いたんだけど、ことみね、薬を飲んでたらしいの。それでね、
ことみの身体に合わない薬だったんだって。違った薬を飲んだのよ。だから、、、」
だから?なんだっていうんだよ。先生が間違えたのか?先生が、ことみの命を、、、
「だからね、もしかしたら、誰かがことみの薬を入れ替えたんじゃないかって。
それでね、あの日、まりあくんが行く前ね、変な人が花束持っていってたらしいの。
だから、もしかしたら、その人が、薬を。。。」
僕は、何がなんだかわからなくなっていた。誰だ?その変な人って!?

冷たい心

僕は、病院に行ってみた。担当の先生に事情を説明してもらおうと思ったのに。
僕には何も教えてくれない。どうして?このことは、何もなかったことにするつもりなんだな。
先生は、「そんなことはなかった。彼女はただの心臓発作だ。」の一点張り。
僕はどうすることもできなかった。とぼとぼ病院を離れる。いつもの木の下で空を眺めた。
どっちが本当なんだ。ただの心臓発作なのか、それとも、聖子の言ってた通り誰かに、、、
僕はどうしたらいいの?ねー、ことみちゃん。。。

「ぷるるる、ぷるるる」「はい、もしもし」「・・・」なんだ?いつものいたずら電話か。
どうしよう。すぐにきっちゃおうかな。あ、でもどうせなら、相手がきるまでまとう。
そして、相手に嫌がらせをしてやる。「・・・」「・・ぃた」「ぉ・・が・・しぃた」
「・・・・」?何を言ってるんだ?こいつ。気色悪いなぁ。
「ふぃひぁはぁ、ぉれが、ころしたぁんだよぉ」
「俺がぁ、ことぉみをこぉろしたぁんだぁ~よぉ。」「俺のぉ琴美を俺がぁ殺しぃたぁ~」

僕は、ぶるぶる震えていた。怖かった。この電話が。。。何を言っていいのか。
思わず電話を切りそうになった。でも切れなかった。
「琴美」という言葉を口にしていたから。それがたった一つの光のように思えた。
これをきると、僕は先が見えなくなる。だから、僕はこの恐怖に耐えた。
そして、受話器に耳をあてる。すると、まだぶつぶついっている。
「ぁってんだぞ。ぉおまぇえがぁ、ぉおれのじゃぁあまをしたんだぁ。だぁかぁらぁ、
おぉれがぁ、ことぉみぃをころぉ・・ぃしたぁ・・」いつまでも続いている。
「おまえ、だれだ!」僕は、自分でもびっくりするような大きな声を出していた。
すると、相手もビックリしたらしく、急に声が聞こえなくなった。

しばらく沈黙が流れた。
どうしよう。僕は相手の事がわからない。でも、こいつはどうやって僕の電話番号を知ったんだろう。
「もしもし、・・・君はだれ?」でも、沈黙が流れている。もう、あきらめかけたその時、
「ゴーン、ゴーン、ゴーン、・・・・ゴーン、ゴーン」と時計の音が時刻を告げた。
そして、しばらくして、電話は切れた。ん、なんだ?この違和感は。
僕には、この時計の音を、どこかで聞いた覚えがある。そう、どこかで。
どこだどこだどこだ?思い出せ。
僕は絶対聞いた事があるはずなんだ。どこだったかな、どこだったかな。。。

僕の前に現れた、僕を憎んでるらしき人。どうして?僕はあらゆる記憶を一つずつ整理していった。
まず、彼は、琴美を殺したといった。ということは、琴美は殺されたのだろう。
そして、次に、僕と琴美ちゃんのことを知っている人物。もし彼の話が本当なら、
病院に訪れた人も、きっとこいつだな。それなら話がわかる。でも、、、
なんで殺したことを僕にいうんだ?警察だって動いてないのに、わざわざばれるようなこと。
うーん、そして、俺が琴美ちゃんの邪魔をしたっていうこと。これは本当かどうかはわからないけど。
でも、もし本当なら、僕のことがじゃまで、琴美ちゃんを自分だけのものにしたかったのか!?
それだけのために、琴美ちゃんを殺したのか?絶対、僕が見つけてやる。許せない。
警察になんか頼ってられない。僕が、僕がこの手であいつを見つけ出してやる!!

あの時計の音。どこで聞いたんだろう。ゴーンって音。ゴーン、ゴーン、・・・
小さい頃、聞いた気がする。あの音、僕は恐かった。畳がひかれて、電気がついてない部屋。
外からの光もほどんどなく、あの部屋には入りたくない、っていつも思ってた。
近くには、確か仏壇がおいてあって、そこには写真がかざられていた。
部屋の敷居の上のほうにも、何人かの写真が僕をみているようで恐かった。
もう、あそこにはいきたくない、そう思ってた。暗闇の中、僕はいつもあいつを待っていた。
そう、あいつ。今、やっと思い出した。小学校の時の同級生。小野茂。

僕は、小さい頃、近所の友達と遊んでいた。たくやに、琴美ちゃんに、こうじに、茂。
でも、僕は茂が好きじゃなかった。いっつも琴美ちゃんをいじめてたから。
だから、僕とたくやが琴美ちゃんを守ってたんだ。いっつも。それでも茂は琴美ちゃんを。
いつか、僕は茂の家に呼ばれたことがあった。クリスマスパーティーだった。
僕は、暇だったので遊びに行った。でも、茂はどこかに行っていて、一人で留守番をすることになった。
そして、僕は一人ぼっちで茂の家で12時の時計の音を聞いた。
ゴーン、ゴーン、・・・って。あのとき、僕は恐かった。きっと茂は僕をからかったんだ。
あの時から、茂は僕をうらんでた。「琴美ちゃんのこと好きなんだろう」っていわれたっけ。
僕は恥ずかしいから、「そんなことないよ」なんて言った気がする。
今思うと、なんで正直にいわなかったのかなぁ。でも、過去なんて振り返ったって何も変わらない。
関係ないんだ。今どうするか。今から、あいつの家に行こう。茂の家。きっとあいつに違いない。
琴美ちゃんが入院していた病院のすぐそばだ。

恐怖

僕は、気が付くと茂の家の前に立っていた。階段を上り、鉄の扉をがんがんと殴っていた。
あいつはたしか一人暮らしのはず。だから、いるならでてこいよ。おまえに話があるんだ。
それでも、誰もでてこない。僕はそこで2時間ぐらい扉をたたいてた。
なんなんだ、なんでだれもいないんだよぉ。でてこいよ。話しを聞きたいんだよ。
お願いだから、でてきて、本当のことを教えてくれよ。君なんだろ?僕に電話したのは。
ねー。お願いだから。僕はその場に座り込んで、夕日を眺めていた。

「かつーん、かつーん、かつーん、、、」ん?なんだ?僕は眠っていたみたいだった。
いや、途方にくれていたんだろう。遠くから靴の音が耳に響く。
「かつーん、かつーん、かつーん、、」だんだん近づいてくるな。
なんだ、耳がいたい。止めて、その音。僕の耳に突き刺さるようなそのいやな音。
「かつーん、かつ、かつーん、かつ、かつ、かっ、かっ」?音が止まった。
僕は、あたりを見回してみた。すぐそばに、人影が。いきなり僕の腹を蹴りあげた。
その顔は、少し笑いながら、しかし目は焦点があっていなかった。
僕は、むせながらなんとか立ち上がり、彼に襲い掛かった。彼は、、、茂だ。

僕はやつの身体に体当たりをして、腕をとり、押し倒した。
軽く頭をうったらしく、フラフラしている。僕の心臓はバクバクしている。
言葉がなかなか出てこない。「ふー、ふー、ふー、、」僕は落ち着け、落ち着け、、
と心の中でつぶやきながら、茂を押さえつけていた。
「おまえ、茂だよな?」僕はやつに叫んだ。でも、なんの反応もない。
「僕に電話をかけてきただろう?あれは、本当のことなのか?」やつは黙ったままだ。
どうしてだよ。本当にどうなってるんだ。もう心臓の音が大きく頭に響いている。

「おまえが、悪いんだ。おまえが、、、」やつはそういいながら、僕を押し倒した。
きっと、こいつが琴美ちゃんをころしたんだ。僕は、こいつが、、、憎いんだ。
その怒りと憎しみが僕の胸の中で大きくなっていくのがわかった。
もう、顔が燃えるようにアツイ。
気が付いた時、僕は茂の顔を殴っていた。やつが血を吐いても、僕は気にしない。
僕には、もうなにも見えていなかった。ただ、琴美ちゃんに対する気持ちが僕をつき動かしていた。

答え

今日も風が強い。まるであの日のように。さわやかな風。みんなが僕をみる。
また、あの子がきた。ここで本を読むのが好きなんだな。
僕は、いつからか一緒に本を読んでいた。ほかの話しはしてないな。ただ、本についてだけ。
いつか、彼女はジャンヌダルクを読んでいた。僕は、アーサー王を読んでいた。
そして、彼女にその本を手渡した。彼女は、快く受け取ってくれた。
僕は、彼女の名前を知らない。でも、いいんだ。知らなくたって。
また、この木の下でいつでもあえるんだ。だから。

僕は、、、あの時のことを思い出すのが怖い。でも、ぼくの頭から離れない。。。
あの時、ぼくはポケットに入っていたカギを取り出して、あいつの足に突き刺したんだ。
すると、あいつはすごい形相で僕をにらんだんだ。でも、そのあと僕は「ごんっ」という音とともに、
倒れたんだ。意識が、少しずつ薄れていく中で、僕は女の子の姿をみた。。。聖子だった。
彼女は、、、聖子は僕を虫でも殺すような、そんな目をしていた。
体中の力が抜けていく気がした。コロサレル。僕はそう思った。茂はのっそりとおきあがると、
僕の顔を踏みつけている。感覚はもうほとんどない。ただ、ぼくの目がその光景を焼き付けている。

僕は、まだみていた。どうなるんだろう。もう恐怖はなくなっていた。
どのくらいたっただろう。聖子が茂の家から包丁をもってきた。僕の上には茂が座っている。
そして、茂は立ち上がると、包丁をうけとり、ぼくの足に突き刺した。
でも、もう僕には声を出すこともできなかった。ただ、じっとその光景を見つめるだけだ。
何度か刺すと、血がやつの顔にかかった。僕は、痛みの感覚すらわからない。
血が、ぼくの目にはいった。ああ、もう何も見えない。もうなにも。
かすかに聞こえる。声。。。茂の笑う声。もう、ぼくの意識はどこかへいってしまっていた。
もしかしたら、ただの夢なのかも。そう思う方が僕には楽だったのだ。でも、そうではないらしい。
今、ぼくは車椅子にのっている。これは事実なんだから。

時間

僕は、考えた。病院の先生が僕に教えてくれなかった。たぶん、誰にも教えてはいなかったんだ。
だって、琴美ちゃんは本当に病気で亡くなったんだから。
茂は聖子から僕と琴美ちゃんのことを聞いたのだろう。
そして茂は、きっと今回のことを聖子と企んだんだ。
でも、なんで聖子は茂に協力したんだ?
聖子もぼくに恨みがあったのだろうか。
僕にはもう何がなんだかわからない。あれから、2人は傷害罪で捕まったらしい。
今、僕が生きていることが不思議なくらいだ。
アイツの、茂の目が僕の脳裏によみがえる。

彼女が、僕をみつけてくれたらしい。
ここからも眺めるとみえる、大きな木。そこからここが見えたかどうか、
それは、ぼくにはわからない。でも、彼女は僕をみつけてくれたんだ。
警察が駆けつけた時には、もう僕は血で紅く染まっていたらしい。
僕は気絶していた。足から血を流して。
それで、すぐに近くの、琴美ちゃんが入院していた病院に運ばれた。
僕は、そこで意識を回復した。もしかしたら、琴美ちゃんが、、、

今、僕は少しずつ歩けるようになった。あれから、3ヶ月。
今も、遠くに行く時は車椅子を使う。松葉杖は、どうもまだ苦手。
琴美ちゃんがいる場所。あの子が居る場所。
僕の身体。早く治って、前みたいにあの木の下に。
もう、紅くなった葉っぱも、少しずつ落ちている。大地が白い息を吐いて。
冷たい風が、朽ち果てる命を吸い取りながら、どこかへ向かっている。
命が、終わったんだな。

「まりあ~」智恵は、いつも僕の側にいてくれた。
僕が、落込んでいるときには、いつも、、、君がそばにいる。
君がいるだけで、どれほど僕は助かったことだろう。
頭がいたい。あの時のことを思い出すと、いまでも気が狂いそうになる。
でも、君の顔をみると、僕はほっとする。僕は、君のことが。。。

紅かった葉っぱも、今では白い雪に隠れるように残っている。
もう冬だな。僕の足の傷はもう直っているらしい。ただ、僕が歩くことを望んでいない。
このまま、歩けなくても。そう思うことがある。
でも、いつも智恵が応援してくれる。はやく、歩く練習をしようかな。
もし、僕が歩けるようになると、智恵と、いまのように一緒にいることができるのだろうか?
そのことを考えると、僕は歩くことよりも、智恵と一緒にいる方を選んでしまっている。
あはは、どうしようもないな、僕は。女の子と一緒にいたいから、歩かないなんて。
そんなこと、誰にもいえない。恥かしくて。このことを智恵が知るとどうおもうかな?
もう、相手にしてもらえなくなるのかな?
でも、今だけは一緒にいたいんだ。あともう少し。僕の心を癒してほしい。

ある日、僕は公園にいた。一人でベンチに座っている。子どもが砂遊びしていた。
サッカーをしている子もいる。ブランコで遊んでいる子も。
砂遊びをしていた子が、穴をほって、何かを埋めはじめた。
すると、サッカーをしていた子が、砂場に近づいてうめているものを取上げている。
僕は近づいて、様子を伺っていた。そこに、ブランコで遊んでた子がやってきた。
なにやらもめているらしい。砂場の子が、泣出した。すると、ボールをもった子は、
「こんなもの、、、」といって、地面になげつけた。かちゃ、という音をたててそれは壊れた。
砂場の子は、泣いたままだ。ブランコの子が、壊れたそれを拾って、僕に手渡した。
それは、とても小さくて、でも、はっきりとわかる。
僕の、思い出。。。

まりあ

気がつくと、辺りには誰もいなくなっている。僕は公園を後にした。
ふらふらと歩いてみる。人がいっぱいだ。今日は、、、クリスマスかぁ。
楽しい音楽と、明るい装飾で、みんな楽しそう。
僕は息を、ふーっとはいた。みんなも白い息をだしている。
なんだか、不思議な感じ。みんなの心がわかるようだ。
ふと、一人の青年が僕に話かけてきた。
「僕はね、もうそろそろいかなくちゃ行けないみたいなんだ。君には、なんのことかわかるよね?
もう、僕はいちゃいけない。きっと。あの子ももう行っちゃったんだよ。
ただね、これだけは覚えていてほしいんだ。君は、僕にあおうと思えばいつでもあえる。
ただ、それは望まない方がいいんだ。だって、君にはもう僕が必要ないんだから。
いつか、君は僕のことを、あの子のことも忘れてるだろう。そのまま、思いだないほうが、
君にとっては、いいことなんだ。」
彼は、それだけを僕にいうと、人ごみの中に消えていった。

ああ、ぼくはまた夢をみていた。今、鮮明に覚えている。
砂場にいた小さな子ども。あれは、、、ぼくだ。サッカーをしていた子、あれは、茂。
そして、ブランコの子は、、、琴美ちゃんか。
きっと、ぼくに思い出を渡したかったんだ。あの景色、ぼくは覚えている。
砂場で、ぼくは泣いていた。悲しかったんだ。あれは、琴美ちゃんからもらった大事なもの。
茂にとられて、ぼくはあのあと茂をたたいたんだ。そっか、あの時からか、茂がぼくを恨んでいたのは。
遠くから、親子がやってきた。聖子だ。彼女は、ぼくをじーっとみてた。
あれだけ仲のよかった僕らが、だんだん遊ばなくなったのは、そうか、あの時からか。
ぼくはこのことを忘れたかった。記憶を無くそうとしていた。思い出したくなかった。
そういえば、あれはどこに埋めたんだっけ?琴美ちゃんからもらった、大事な、、、

思い出

あれは、どこに?本当に埋めたのか?そんなことは、覚えてない。あの時のぼくなら。。。
もう一度、でてきて。もう一人のぼく。そして、あれをぼくにみつけさせて。。。

「まりあ?」ぼくはボーッとしていた。いつも智恵のやさしい声で現実の世界へ呼び戻してくれる。
君は、、、どうしてそんなにやさしいんだろう。そういえば、智恵との小さい頃の思い出がまだはっきりしない。
すべてを思い出したはずなのに。まだ、ぼくは忘れているのだろうか?
「智恵、そろそろ帰るね、疲れたから」そういうと智恵は帰っていった。
なんだか、すごく淋しい気分だ。ぼくの中のなにかが、智恵と一緒にどこかへいってしまったようだ。

ドン。。。?なんだ?何か音がしたようだけど。
振り向いても何もない。ぼくは耳をすました。でも、それは聞こえない。
ぼくは、自分の本能が感じる方へと、歩いて行った。道が、、、あった。本当に小さな道。
うっかりすると、見落としてしまいそうな、そんな細い道で、小犬が倒れていた。
少し、ぶるぶるっと震えている。まだ、生きているようだ。
「ひどいな」同じ生き物なのに、どうして助けないんだろう?
もう、ほとんど反応がない。「ぼくが、、、君を静かなところへ連れていってあげる」
ぼくは、小犬をあの大きな木の下へ運んできた。ここなら、静かに最後の時を過ごすことができるだろう。
そして、小犬は動かなくなった。。。

この大きな木。きっと、ここが君の墓標になってくれる。ここには、琴美ちゃんが眠ってるんだ。
きっと、かわいがってくれるよ。琴美ちゃんも一人で寂しいだろうから。
それに、彼女は犬が大好きだった。小さいころも、近くの怖い犬が琴美ちゃんにはなついてた。
そして、よく散歩してたんだよ。。。あれ?
今、なにか思い出したような気がした。大きな木。たしか、ぼくは大きな木の下で琴美ちゃんと話をしていた。
あの木は、なくなっていたと思った。でも、ここなんだ。この大きな木が、ぼくが小さい頃琴美ちゃんといた、、、

宝物

ぼくは、木の下を軽く掘ってみた。そこには、本当に小さな小さなカプセルようなものの中に、ちっちゃな貝殻が入っていた。
琴美ちゃんがぼくにくれた。宝物だ。でも、そこにはいっていた貝は、どこも壊れてはいなかった。
ぼくは、胸に貝殻をあて、小犬と一緒にそこに埋めた。
これで、、、君はことみちゃんと一緒だよ。ぼくは心のなかで、そっとつぶやいた。

気がつくと、ぼくは泣いていた。やっと、なんだか安心できた。
琴美ちゃんは、きっとこの貝殻をここに埋めたことを知っていたんだ。
だから、あの時この木の下にみえたのは、琴美ちゃんなんだ。
すぐそばで、琴美ちゃんが笑ったような気がした。
ぼくは、すべてを理解できた。なんだか、疲れたな。疲れた。。。

眠りについた。どれくらい眠っただろう。目が覚めて、ぼくは「智恵」と呼んでいた。
智恵、そう、ぼくは、今のぼくには智恵が宝物なんだ。
もう歩けるようにもなった。智恵は、もうぼくの前に現れてくれないのかも。
でも、ぼくは、、、ぼくは智恵のことが。

「いつか、大きくなったらね。お金持ちになるんだ。そしたらね、いっぱい遊べるね。
だって、毎日毎日遊びたいもん。学校にも行かなくて、いっつも遅くまで遊べるし。
夜まで遊んでも、怒られないし。あー、でも服はよごさないようにしないと。
きたないーっていわれちゃうもんね。それで、、、ずっと、ずっと一緒に遊ぼうね」

「これ覚えてる?」僕は智恵から、缶ジュースのふたの部分をみせてもらった。
それは、僕が小さかったとき、そう、おままごとをしているときだった。
近くに落ちていた、ジュースのふたを、わっかになった部分だけを智恵の指にはめたことがある。
「懐かしいね。あの時は、本当に楽しかった。だって、いっつも智恵と遊べたんだもん。でも、いつからかな?
智恵と遊べなくなったのは。引越ししたから?それとも、ちっちゃい頃の思い出って、そういうものなの?」
僕は、なんだか悲しくなった。でも、一つ、思い出したことがある。それは、一通の手紙だった。

タイムカプセル

みらいのまりあくんへ。
ぼくが大きくなったら、ちえをさがしにいきます。
きっと、みらいのまりあくんは、ちえといっしょにあそんでいるんだろうなー。
いっつもなかよく、あそんでますか?
ちえちゃんに、なかされないようにね。
やさしくしてあげてね。
いまは、ちえがいなくなってさみしいけど、きっとすぐに会えるとおもうので、
ぜったいみつけてください。
おねがいします。

僕の机の奥の方から、未来の自分に宛てた手紙がでてきた。今の僕あての手紙。
これは、メモ帳の間に押し込まれていて、ぜんぜん開いてなかった。
ただ、あのジュースのふたをみて、思い出したんだ。あれは、ちっちゃな指輪のかわりだったんだ。
智恵は、何も思っていなかったんだろうな。でも、僕はあの指輪、結構気に入ってたんだ。
だって、智恵には感謝してたんだもん。いつも遊んでくれたし、それに。。。
あはは。思い出したよ。智恵。智恵は、僕の初めての友達なんだ。

ある日、いつも僕と遊んでくれてたおにいちゃんが、急におじさんに見えた。
なんでかはわからないけど。学生服をきてたからかな?僕は、「おじちゃん、あそぼー」っていった。
すると、お兄ちゃんは、僕ともう遊んでくれなくなったんだ。
悲しかった。だって、僕には友達がいないんだもん。ひとりぽっちだ。
えんえんと泣いていた。涙がとまらなかった。
知らないお兄ちゃんがきた。僕の頭をなでると、あめだまをくれた。
「ほら、空を見上げてごらん。あの大きな雲をみてるとね、楽しいんだよ。いろんなものにみえるんだ。
君には、どんなものが見えるかな?」そういって、いろんなお話をしてくれた。
「あの雲にはねー、僕たちにはみえない、秘密のお城が浮かんでるんだよ。僕たちをいっつもみてるんだ。
たまに、そのお城から雲の下へおっこちちゃう人がいてね。でも、大丈夫。すぐに助けがきてくれるんだ。
神様っていう人もいるけど、僕らとおんなじ。おんなじなんだよ。ただ、ちょっとだけやさしいんだ。
ちょっとした命も大事にする。花の命や、虫の命なんかもね。君にはまだ難しいかな?
だから、君が泣いてるときも、きっと心配してるんだよ。君は一人ぼっちじゃないんだよ。」
「僕、そのお城みてみたいなぁ?みれるかなぁ?」
「きっと見れるよ。いつか、きっと。ほら、考えただけでも楽しいでしょ?さぁ、元気になったかな?
お友達だって、すぐにできる。だからね、元気をだそうね。」

ふたりぽっち

僕は、いつのころからか、一人で話をすることが多くなった。
ちっちゃかったから、別に僕のことをおかしな子って思う人はいなかった。
そう、僕は一人じゃないんだ。だって、ほら、いまだって僕に話し掛けてくれるんだもん。
君がいれば、僕は一人じゃない。ね?そうだよね。君はいつだって、僕といっしょ。
今日は、どこにいく?でも、もう暗くなっちゃった。そろそろお家にかえらないと。
星がいっぱいだね。きれいだ。手が届きそうなのに、つかめないや。なんでかなぁ?
大きくなったら?そうだなー、僕は君と一緒に空を飛んでみたいな。あの雲のお城を探しに。
ね!楽しそうでしょ?いつか、いってみようね。きっと。約束するよ。

僕は、いろいろ歩いてみた。きっとあの頃が一番いろんなとこをみてまわったなぁ。
近所のお菓子やさん。人が住んでなさそうなアパート。外人が住んでるアパート。
怖いおにーさんが住んでる家。壊れかけてた家。通っただけで、吠える犬。きれいな葉っぱがある木。
駐車場みたいだけど、ジャリでいっぱいの空き地。飛行機の滑り台がある、公園。
公園。砂場もあったな。そう、智恵との出会いは砂場だった。

彼女は、砂山をつくって、穴をほっていた。僕はそれを見ていた。すると、僕に気づいた彼女は、
僕の前にスコップをおいて、隣りに座っている。僕は、そのスコップで彼女の代わりに穴を掘ったんだ。
山にトンネルが完成すると、僕は女の子に、「終わった」とひとこといったんだ。すると、「ありがとう」
って、いってくれた。それから、彼女は、飛行機の滑り台で遊んでたんだ。
僕は、彼女をずっとみていた。楽しそうだなぁ。彼女はこっちにくると、「一緒にあそぼ」って誘ってくれた。
あの時、僕はすごく嬉しかったんだ。初めての、友達。

新しい人生へ

あたりには、誰もいない。一面に雪が敷き詰められている。白い絨毯のようだ。
誰の足跡もない。僕だけの場所。特別な。
手をひろげて、雪をつかんでみた。でも、すぐにとけてしまった。
なんだか、不思議だ。白くて、冷たくて、でも、すぐになくなる。
触れられるのは、ほんの一瞬だけ。まるで、大事なものを失うような、そんなはかない気分。
手にふれた時、同時に悲しみも受けとめないといけないんだな、きっと。

「まりあ、おまたせ~」
彼女が、きてくれた。智恵。白いコートに身を包んだ彼女は、まるで、お姫様のようだった。
「ありがとう、きてくれたんだ」僕は、彼女の手をにぎった。
ちょっと冷たくなってる。僕は、ハァーって息をかけて、彼女をみた。
暗闇の中で、まるでそこだけライトアップされたかのように、彼女は明るく見えた。
白い雪が、奇麗に彼女に解け込んでいる。
「奇麗だ」僕は思わず声に出してしまった。彼女はにっこり笑って「ありがとう」っていった。
その笑顔が、忘れられないほど可愛かった。
僕は、ちょっと恥ずかしくなって、下を向いてしまった。

ごーん、ごーん、ごーん、、、
鐘の音が聞こえる。この鐘が鳴りおわると、今年ももう終わり。
長かったような、短かったような、いつも思うことだ。
でも、今年は、側に智恵がいる。やさしい笑顔を僕にみせて。
「ありがとう」心の底からささやいた。僕の本当の気持ち。
気が付くと、雪が止んでいた。鐘の音も、鳴り止んでいる。
「いく?」そういって、彼女の手を握った。
真っ白な雪の上を、僕らが歩き出す。大きな木に見守られながら。

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