輪廻

そこには一人の少年が光のなかに照らし出されていました。
あまりにもまぶしい光のなかに、ただたたずんでいます。
光の中の彼の顔は、やさしい感じがしました。
以前あったとき、親切にしてもらった。
なのに、今度は・・・
私は、船から降りました。彼に私が確認できるくらいまでそばによりました。
彼は私の顔を見ています。
私は、なにもいえません。
私のあとから、ディランと三島さんも降りてきました。
「よう、こぞう、またあったな。」
ディランは彼に向かってこういいました。
「やっぱり、おまえはこうなる運命だったのかもな。」
わたしはじっと彼を見つめています。
彼も私をじっとみつめています。

彼は私にむかって「おかえり」といいました。
私は、、、ただ彼を見つめているだけです。
ディランが彼に襲いかかろうとしました。
でも、三島さんがそれを制しました。
「きみはなにもしなくていいんですよ。私にまかせてください。」
それでもしばらく三島さんは何もしませんでした。
「まだ、早いんですよ。」
三島さんのゆってることが、よくわかりません。
私は空を見上げました。この場所から空高く一筋の線が上っています。
光の線が。
まるで、月の光がここまでとどいてるようです。
でも、月はでていません。
あ、でも・・・
「そろそろいいみたいですね。月がみえてきたことですし。」
そういって、三島さんは、小さな筒のようなものを出しました。
「これはね、月の光を吸収して蓋が開くようにしてあるのです。」
ビュンっという音がしたかと思うとさらに大きな光があたりを包みこみました。
そして、中から・・・

淡く、眩しい光を放ちながら、その奥底から始神があらわれました。
「あなたとあうのは、2度目ですね。覚えていますか?
あれから、ずいぶん長い間あなたにあうことは許されなかったのです。
それでも、無理にでもあなたにあうことができてよかったと思います。
一緒に戻りましょう。」
そういうと始神は、彼のそばへと近づき、軽く抱きしめた。
「僕は、、、夢をみているのかな?」
そうゆって、不思議そうに始神の顔をみつめていました。
「僕は、これからどうなるの?」
「あなたは、これから私と一緒に逝くのです。私とあなただけの世界へ。
遠い昔、そうであったように。」
光の強さが徐々に大きくなっているようです。
もう、始神と彼の顔がはっきりみえなくなりかけています。
このとき、やっとあのとき渡されていた道具について思い出しました。
スイッチをおしてください・・・
こういうことだったんだ。
もう、強烈な光でなにもみえなくなりました。

あなたは今からわたしと一緒にいくのです。
 どこへいくんですか?
何もないところへです。
 いやだよ、僕いきたくないよ。
これは、あなたが望む望まないにかかわらず、やらなければならないのです。
 だって、僕は、、、
これから、わたしとあなたは二人だけの世界にいきます。
そこには、時もない、星もない、つきもない。
ただ、わたしとあなただけが存在するのです。
 そんなところに、いきたくないよ。どうして僕なの?
それは、、、
あなたとわたしは、2人で1人。
あなたが地球なら、私は宇宙。
わたしたちは、ひとつでもありすべてでもある。
地球という場所に人間がいます。宇宙というのは地球とはまた別の空間。
宇宙は、一人一人の人間の体の中とつながっています。
どこから空間が捻じ曲がっているのか、境界線はありません。
一人一人のすべてが、宇宙とつながっているのです。
しかし、それを普通の人間が気づくことはありません。
なぜなら、メビウスの輪のように、裏と表があるように、
相反するものだからです。
わたしとあなたの存在のように。
でも、これからひとつだけその問題がとけるのです。
わたしとあなたがひとつになることによって。
すべての時間軸が元にもどります。
 僕、いやだよ。
 僕・・・

僕は僕は、、、僕にそんなこといわれたって、まだ何もしてないんだよ。
まだ、あのゲームもクリアしてないし、あの本の続きも読みたいし、
あのテレビだって、まだまだ途中なのに・・・
いまから、2人きりだなんて。
お兄ちゃんに飛行機に乗せてもらう約束もおわってないのに。
もうすぐ誕生日なのに。
いっぱいいっぱい欲しいものがあったのに。
ケーキをたべたかったのに。おもちゃがほしいのに。
あの子とも遊びたいのに。
サッカーの試合にでもでないといけないのに。
もうすぐ試験をうけなくちゃ。お母さんと約束したのに。
いままでいろいろがんばってきたのに。
明日プールにいこうねーって、クラスの女の子に誘われていたのに。
せっかく、風邪が治って、体調がよくなったのに。
自分の体験したことが、なんだったのか、少しは整理ができかけてたのに。
なのに、なのに、なのに、、、
僕のこの思いは消えちゃうの?

「そろそろ先生がうまくやってくれたみたいです。
私たちもこのままここにいるわけにはいきません。そろそろいきますよ。」
そういって、三島さんは私たちを光の側から遠ざけようとしました。
「俺はどうすればいいんだ?」
ディランはやっと俺の出番かと目を輝かせました。
「あなたは、あの船で、本当の世界に返ってください。この子をつれて。
さぁ、船を動かす準備をしてください。もう、あの中には誰もいません。
あなた一人で操縦をするのです。でも、きっときみならできるでしょう。
なぜなら・・・」あの船は君が乗っていた船だから。
「わかった、操作は一通り見ておいた。すぐにでも出発できるだろう。」
「あ、しばらくまっててください。ゆかりさんとお話がありますので。
さきに乗り込んでいてください。いつでも出発できるように。」
そういって三島さんは、私の側によって来ました。
「あなたには、これから最後の仕上げをやってもらわなければなりません。
これから、赤い光がすべての光を吸収します。
ブラックホールのように、中心に小さな穴ができているのです。
その部分に光は吸い込まれるのですが、そのときに鏡が生まれるのです。
あなたがあちら側とこちら側を行き来するときに使った窓。
その窓の中に、先生は彼を、終神を閉じ込めようとしているのです。
その窓を、再びその剣で壊して欲しいのです。そうすれば、二度とこちらの世界には戻ってこられません。
いいですね?」
そういうと、三島さんは、目を細めて光の奥底を凝視していました。

だんだん光の色に変化が現れてきました。
今までは、ただ真っ白な強烈な光にあたりが包まれていただけだったのが、
一瞬、紫のにぶい光が放たれたかと思うと、藍い光になり、青く、緑、黄、橙、
そして、最後に赤い光へと変化してきました。
その赤い光の中心に、2人のような1人のような、何か、が存在していました。
そして、あたりが真っ暗になったかと思うと、
赤い鏡がその場所に落ちていました。
あまりに明るい光に目がなれていたので、その鏡の赤さでなんとか目につきました。
前壊した鏡<窓>は青い色をしていました。
「ゆかりさん」
そう呼ばれわたしはその鏡の側まで近づきました。
わたしの最後の仕事。
この鏡を壊せば、この夢のような現実もすべて終わる。
そう、すべてが。
赤い鏡に向かって、剣を垂直に突き刺しました。
カチリという音とともに、鏡はわれ、そのまま剣は地面に突き刺さりました。
剣は、まるでそれ自体に意思をもっているかのように地面へと溶け込んでいきました。
鏡の破片も、もうこなごなになって、微塵ものこっていません。
「剣も役目がおわったのでしょう。あなたの役目も終わりました。」
そう三島さんは私ににっこり微笑んでくれました。

「さて、帰りましょう。」
そういって私は飛行船に乗りかけました。
この場所をもう二度とみることはないんだな。
痛い気持ちと、うれしい気持ちと、複雑な感情が私の中にありました。
あれ?
後ろにいたはずの三島さんがいません。
「三島さん?」
あたりは船のエンジンが、ブォンブォンと響いているだけです。
私が船をおりかけようとしたとき、三島さんの身体が地面に吸い込まれているのがみえました。
「三島さん!」
彼はわたしのほうをにっこりしながら首を横にふりました。
「ゆかりさん、あなたは強くなりました。
もう、自分に自信をもってください。みんなと同じじゃないんです。
あなたには特別なチカラがあるのですから。
強い意志をおもちなさい。
あなたが帰りたい!そう願う意志は誰にもじゃまはされません。」
あなたにあえてよかったと思います・・・
「三島さん、三島さん。」
もう、胸のあたりまで地面に溶け込んでいます。
「先生にこの時間、ここで消えるようにタイマーがしかけてあったのです。
これは、必要なことなのです。ことがすんだのに、それを再発しうるわたしの存在は、
この世界でも、どの世界でも必要とはされません。
わたしも、本当に成功するかどうか疑問でした。
が、迎えの船に乗ったときに、確信したのです。
あなたとディランの姿がみえなかったから。
もし、あそこであなたたちの姿があれば、私は安心してスイッチをおつことができなかったでしょう。
でも、やはり先生のおっしゃるとおり、すべてはうまくいっていたのです。
わたしの必要性もなくなりました。だから消えるのが必然なのです。」
そういって、目をつむりました。
「はやくかえっておじいさんを助けてあげなさい。」

あるチカラがはたらいていまがある。
小さなチカラに引き寄せられて、飛行船に乗っていました。
ディランでした。
「おまえ、かえりたいんだろ?そろそろやばいんだよ。
三島のことは、俺も見ていた。あいつが俺をここまで連れてきたのがわかったきがする。
おまえを無事未来<元の世界>へもどしてやりたかったんだな。
そのためには、同じ世界の人間である俺が必要だったんだ。
そう、やばいっていうのはな、この船もタイマーがしてあるんだよ。
さっき、いろいろ点検して、いつでも出発できる準備をしていたが、
いきなりメインコンピューターが秒読みしはじめちまって。
それで、無理やりつれこんだってわけだ。」
そういうとディランは一息つきました。
「心配するな。あとはもう、あの場所へ戻るだけだ。なにか望みはあるか?」
そう聞かれたとき、私は三島さんの言葉を思い出しました。
おじいちゃんを助けないと・・・
「私がこっちの世界へくる前の、おじいちゃんがまだ生きてる世界へ戻りたい。」
ディランは私の目をみつめていました。
「わかった。その時間は以前調べたことがある、今から少し変更しておこう。それだけでいいのか?」
わたしは軽く頷きました。
光のトンネルをくぐり、暗闇の世界へと吸い込まれる。
光と闇。
過去の事実、未来の現実。
私の新しい始まり。この魂をもう一人の自分へ受け継ごう。

エピローグ

あのあとどうなったかというと・・・
ディランは再び研究をしているらしい。でも、今までの研究データはすべて消去したらしい。
研究施設に戻ると、ルークというおじさんもそこにいたらしい。
ディランは、彼に裏切られ、彼に殺されかけたことを忘れることはできなかったそうだ。
それでも、彼が自分の目の届かないところにいるのがいやらしく、
<また何かの手違いで自分を裏切るようなことがあるかもしれないので>
以前と同じように彼を使っているらしい。
でも、あまり命令はしなくなったそうです。
もう、あんなことは二度とごめんだ、とディランも少しだけ反省したそうです。
たまに、わたしにメッセージをおくってくれます。
あれ以来、私に勉強を教えてくれたり、おもちゃをくれたり、
私のためにいろいろプレゼントしてくれました。
「おまえに、いつか償いをしたい。」
というのが彼の口癖になっていたそうです。
ディランは死ぬまで発明に没頭していました。

私がやっとのことでこの世界に戻ると、周りに人がいました。おじいちゃんです。
それは、私とおじいちゃんが一緒にいる場面。
そう、あのいやな思いでである、あの記憶そのもの。

ちゃんと理解するまでにしばらくかかりました。
あの状況が、再び繰り返されているのです。
「おい、今日はおいぼれじじーも一緒だよ。どうする?じじーも一緒にやっとく?」
この言葉を聞いたとき、これから起こることすべてを理解しました。
そして、これはさけなければならいことだということも察知しました。
「昨日は、こいつに逃げられたから、まずじじーを捕まえようぜ。お前ら、はやくしろよ。」
わたしが、ここでおじいちゃんを助けないと、またおじいちゃんは・・・
「なんじゃ、おまえら。おまえらか、わしのゆーかに手をだすごみたちは」
おじいちゃん、そんなことゆわなくてもいいよ。もう私はあのころの私じゃないんだから。
「なんだ?じじー、やるのか?おい」
私は、そこでいってやりました。
「私に文句があるなら、私にいってください。それとも、私には直接用件をいえないのですか?」
私が彼らにこういうと、目を白黒させています。
「お、おまえ、おれたちとやるのかよ。」
もう、彼らになにをゆわれても怖くありません。
「お、おまえ、いいんだな。後悔するなよ。」
そういって、彼らの仲間の一人がわたしにバールのようなもので殴りかかりました。
カァン・・・と金属音があたりに響き渡りました。
私の顔めがけて、振り下ろしてきました。
その瞬間、ディランが私に持たせていたものが見えない壁をつくっていました。
「な、どうなってんだ?」
私は、軽く彼らに微笑み、一歩ずつ彼らに近づきました。
「お、おい、こいつやっぱり変だよ。逃げろ。」
そういって、彼らは逃げていきました。おじいちゃんは無事です。
「ゆーか」
おじいちゃんは、私をみつめていました。
「そのペンダントは、おまえの母の形見。」
おじいちゃんは涙を流していました。
「戻ってきたのか。」
そういうと、おじいちゃんは私をしっかり抱きしめました。
「夢で、おまえの母がおまえにペンダントを渡しているのをみた。ゆーか、おまえ母とあったのか?」
わたしは、お母さんの顔を思い出しました。
「うん、とてもやさしいお母さんだった。」

ひとつのペンダント。

これが未来へも過去へもつながるかぎだということは、私が知る必要もないことです。

ただ、ひとつだけ思い出したことがあります。

それは、先生<始神>もこのペンダントをしていたことを。

受け継がれていた。私の母にも。そして、私にも。

時空をこえて。

過去から現在。今から未来。

すべての記憶は、このペンダントと共に。

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