始神

「あ、先生。」
髪の長い背の高い女性がはいってきました。
「どうしました?」
そういって、私が先生とよばれている女性をみつめているのに気づくと、
にっこりわらいかけてくれました。
「気がつきましたか。」
わたしは、その女性から目を離すことができませんでした。
そのひとみに、すいつけられているようです。
とても、きれいで、とても、すきとおっている。
わたしのこころのおくそこまでのぞかれているようでした。

「助手にいろいろ聞いているとおもいますが、ああ、そこの男です。
あなたのこれからを導いてくれたとおもいます。
本当のことは私にもわかりません。なにがかわるのかも。
いまあなたと接触しているのは、あるべきいまなのか。
そんなことを考えてしまうこともあるのです。」
たんたんとその女性は話し始めました。
わたしは、その言葉を真剣にうけとめていました。
「だから、わたしが存在することが、いいのかわるいのかさえ、
それすらわからないのです。
すべてをみてきたとおもいました。しかし、どれだけ未来にいっても、
また、どれだけ過去にいっても、
わたしがいつ生まれたのか、そして、本当に未来には存在していないのか、
ある時点では存在し、ある時点では消滅し、そしてまたある時点では存在しているような、
わたしは、そんな不安定な存在になってしまったのです。
きえてしまうのなら、きえてしまうのもいいでしょう。
しかし、わたし一人できえるわけにはいかないのです。
なぜなら、わたしが消滅すれば、わたしの分身である、あの男が一人もがくことになる。
わたしと同じ苦しみを、あの男に与えるわけにはいかないのです。
なぜなら、あのおとこは、別のものであって、わたしなのですから。」
頭が、少しいたくなりました。

「あなたはこんなお話をきいたことがありますか?」
そういって、その女性は話を続けました。
「人間は、生まれたときに、本能にこううめこまれていたそうです。
すべての王になれ。すべてを支配しろ。
しかし、それはウソです。私はそのような記憶を埋め込んでいないのです。
わたしが埋め込んだ情報は、こういうものだったのです。

わたしのかわいいこらよ。
おまえたちは、とてもよわいのだ。
しかし、とてもつよくもある。
このふたつをおまえたちにあたえよう。
しっかりと、つたえていくのだ。
すべてをみつめるために。

そして、あなたたちがうまれたのです。
しかし、どうやたら失敗したようです。
とてもよわいのだ、、、そうおもったひとたちは、つよさをわすれてしまい、
とてもつよいのだ、、、そうおもったひとたちは、よわさをわすれてしまいました。
どちらか、いっぽうにかたよった、そんなこどもたちがうまれはじめたのです。
その悲しみの据え、いつしか、わたしも完全なものから、不完全なものになってしまったのです。
1であるはずの神が、2になってしまったのです。
そのもう一人が、あのおとこなのです。
あのおとこは、わたしがつくりあげてしまったのです。

よわくなったひとたちは、つよいひとにあこがれ、そして、忌み嫌うようになりました。
そして、よわい人が、つよい人へと変化していきました。
しかし、どうやらなにかにもがき苦しんでいるようです。
ちいさな、ちいさな、地球という場で。
外へ外へと夢見ているのです。
しかし、それが本当は無駄であることをいつか気がつくことでしょう。
わたしはもうしっているのです。
わたしはしっている。
その記憶がすでに存在していたのです。
この星の外を知ることは、すべてを知ろうとすることが、
本当は、自分のことをしることになるということを。
あなたには、この意味がわかりますか?」
そういいながら、わたしの方をみつめました。
私は軽く首を横にふりました。
「それは、内も外も、1つだからです。」

「ちょっと休憩しましょう。」
そういうと、その女性はソファーにすわって、空をみつめています。
助手と呼ばれた人は、なにやら、またうろうろしながら資料の整理をしています。
カタカタパソコンのようなものを扱っている姿は、研究員っぽくて、あまり好きではないです。
そう、あのときの記憶が、少しよみがえってきたからです。
あのときのこと。
わたしの夢の中。
わたしを実験としてあつかっていたあの人たち。
しかし、もう夢の中とはゆってはいられません。
あの夢にでていた少年が、あそこにすわっている女性と同じであるから。
この世界に本当に存在しているから。
わたしも、存在している。。。

「さて、そろそろ続きをお話しましょう。」
そういって、またわたしのそばまでやってきました。
「あの、あなたのこと、なんてよんだらいいんですか?」
くすくすと笑っています。
「わたしには、名前はないの。好きに呼んでもらって結構です。」
そうですね、名前なんて、どうでもいいんです。
忘れていました。
名前がなくったって、その人のことを呼ぼうとすれば、なんでもいいんです。
自分が、名前という、固定されたものを信じているだけなのだから。
なまえだけで好きになるとかいう人がいたけど、それはただすきになりたい理由でしかないんだ。
そんなことを思ったことがある。
そんな話をいつかしたきが。
あの人は、たしか・・・
「お話の続きをしてもいいですか?なにかぼーっとしているようですが。」
わたしは、うん、と首をふった。

「あなたには、わたしとあの男を消滅させてほしいんです。
あなたにこんなことを頼むのは失礼だと思っています。
でも、あなたにもあの男はただのおとこじゃないんです。
あの男は、あるウイルスを使いました。それが原因でもあるのです。
あなたの母親の死について。」
わたしの母親の死?
「そう、あなたの母親は、負傷していた逃走犯にあやまって殺されてしまいました。
しかし、その犯人が、なぜ逃走していたのか。なんの罪だったのか。
それは、あのおとこに仕組まれたのです。
彼は、逃げていました。次元の狭間までくると、窓の扉が開いていたのです。
彼は、窓の外へでることを決めました。
窓の外は、まるで天国にみえたことでしょう。
しかし、彼はいつもびくびくしていたのです。
窓の内側からいつ追っ手がくるかわからないからです。
その男の名前はディランといいました。」

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