エピソード

ピッピッピッ・・・
「先生、大丈夫なんですか?まだ・・・」
「我々はもう手を尽くしました。あとは待つしかありません。」
ああ、どうしてこんなことに。。。

眠り

「先生、どうして僕以外に誰もいないんですか?」
「みんな忙しいからね、なかなかこれないんです。
まりあくんは、いつも真面目に授業にでないからこういうことになったんですよ。
休みの日に授業を受けるのはあまり楽しくないでしょ?」
今日は休みなのにわざわざ学校だ。
ていうか、こなくてもわかるからいいぢゃん。
いつのまに出席なんかとってるんだよ。この先生、楽そうだからとってたのに、
なんで厳しいんだよ。失敗したな。
「先生、こんなことしなくてもさー、レポートにしてくださいよ。
授業の内容なんてだいたいわかりますから。それでいいでしょ?」
先生が少し眉間にしわをよせてる。ちょっと怒ったかな?
でも、すぐに笑顔に戻った。
「まりあくん、あなたにきてもらったのは、授業を受けさせるためだけじゃないんですよ。
ねぇ、まりあくん。ほら、こっちへおいで・・・」
え?あ、なにしてるんですか?先生。
せんせ・ぃ?
はぁや・くぅ・・ま・・ぃや・・く・・ん・・
こ・・ち・へ・・おい・で・
・・・・・・・・・
こっちへ。
こっちへこい。はやく。まりあこっちへくるんだ。
まりあ!!

「おにいちゃん?」
ぼくがまわりをみわたすと、兄はすでに出発の用意をしていた。
「おれは先にいくぞ。今日はやっと空を飛べるんだ。」
ぼくは、兄の背中をみていました。
「まってよ、おにいいちゃん。」

「まりあ、俺は大きくなったら、きっと空を自由に飛んでみせるぞ。」
うん。
「ほら、あんな風に、空を自由にとべるんだ。いつか鳥のように自由に駆けめぐる。
そうなったら、おまえも載せてやるからな。楽しみにしとけよ。」
うん。がんばってね。
おにいちゃん。

赤い光につつまれて、飛行機が飛んでいるのがわかります。
大きな雲が下のほうにみえます。
とても綺麗な景色です。
少し耳がキーンとしています。
ぼくは、機内を歩きました。
「ぼく、すわってなくちゃだめでしょ?」
となりのおばさんが怒ります。
仕方がないので席につきました。
「なにか飲み物もらってあげようか?」
やさしくおねーさんがゆってくれます。
ちょっと恥ずかしくて、やっぱりおにいちゃんに会いにこうと思います。

「ここは特別だぞ。」
おにいちゃんは、そういうと機械がいっぱいある部屋の中にいれてくれました。
そのとき小さな音がしました。ほんの小さな音。
カチリッ
一瞬、画面がゆれたきがします。
まるで映画のワンシーンのような感覚でした。
次の瞬間、ものすごい音とともに飛行機が大きくゆれました。
ぼくの画像が乱れはじめました。
ヂヂ・・
途中からザーと砂嵐が吹き荒れてるような画面になると、ぷっつりと消えてしまいました。

ああ、暖かい。
とてもやさしいぬくもりが僕をつつんでいます。
ぼくのこの体をやさしく包み込んでるあなたは・・・
うっすらと意識がにぶりはじめました。
これ、うけとってくれ
ぼくの耳にこの言葉がはっきり残っています。
明るい光に包まれて僕は目がさめました。

目覚め

まぶしいな。
そう思って、目をうっすら開いてみました。
まだ、まぶしくてぼんやりとしかあたりがみえません。
どのくらい眠っていたのかぁ。
体が重くてぜんぜん動けない。
一瞬自分が石にでもなったのかと思うくらい、大きな力で押さえ込まれてるような錯覚に陥りました。
ふぅ
だいぶ、目が慣れてきました。
白い部屋、へんな機械、お花、フルーツ、、、
ああ、ここは病室なんだな、そう思いました。
ベッドに横になっている自分を事実としてうけとめました。
「まりあ」
そう呼ばれて、僕は足元をみました。
そこには、お母さんがうれしそうな顔をしてたってしました。
「まりあ、よかったわね。」
そうゆって、おかあさんは、ぼくのそばまでくると、ぎゅっと抱きしめました。
とても、心配かけたんだろうな。
僕は、今、生きています。

手術

僕はどうやら大きな手術をしたようです。
心臓手術。そんなに悪かったのかな?
記憶があまりありません。
ヒコウキジコデ、フショウシタンダヨ
そうだ、飛行機で僕は、、、どうなったんだろう。
「まりあ、あなたはね、心臓移植のために、中国にきたの。
ここでね、あなたの命を助けるために、ある人の心臓を移植したの。
だからね、あたなは生きていられるのよ。」
お母さんは、少し涙を流していました。
「え、その人はどうなったの?」
お母さんは、顔を横に振っています。
ねぇ、お母さん。その人は、ドウナッタノ?

ぼくが、とてもショックをうけたのは次の日のことです。
看護婦が、なにやらお母さんと話をしているのを耳にしました。
「あのことは、息子にはゆわないでください。
あの子が、苦しむかもしれないから。おねがいします。」
「はい、わかりました。日本に帰れば息子さんもすぐに忘れるでしょう。
元気になられてよかったですね。」
二人の会話が聞こえてくる。
「早く日本に帰ったほうがいいですよ。いくら犯罪をおかした人だからといって、
その人のために自分が犠牲になるとは思ってなかったでしょうから・・・
もし、あの人の家族が現れたらやっかいですよ。」
そのとき、「犯罪者」と「犠牲」という言葉を聞いた僕の体は振るえていた。
僕の中には、犯罪者の心臓がある。そう思うと、生きていることに対して、少し嫌悪感を抱いた。
なにか、複雑な気持ちがする。
ソンナニ、キニスルヨウナコトデモナイケドナ

昨日、僕は日本に戻ってきた。まだ、日本は涼しい感じ。
中国は空気が乾いていて、でも意外と過ごしやすかった。
覚えてるのは、空気の味だけ。
ほかにはなにも覚えてない。田舎の小さな病院で手術をうけた。
傷跡をみると、そのことが脳裏をよぎる。
ぼくのなかに、ぼくぢゃないなにかがある。
ソンナニ、キニナルノカ?
そこまできにはならない。いまではだいぶおちついた。
最近、胸が痛む。体が重く感じることもある。
僕はどんな人の心臓をもらったのか、気になり始めた。

検索

お見舞いにきてくれた人に、理系の人がいたので、このことを話すと、
インターネットでしらべてくれた。
カチカチッて音がする。
僕がいたところは、北京まで飛行機でゆき、そこから車などをのりついで、
山の奥までいったところだった。
僕の記憶どおりに地図帳で調べると、のっていなかった。
でも、インターネットは便利なもので、ここにはその地図にものってない地名が、
しっかりと記入されていた。
「ここだ」
ぼくは、画面をみつめていた。
カチカチとそのまま作業は続けられた。
その病院も、HPがあり、そこには、移植手術専門、とかいてあった。
そういえば、お母さんは、どうやってここの場所をしったのだろう。
もしかしたら、お母さんも誰かに教えてもらったのかな、HP。
そう思いながら、そのページにアクセスしてもらった。

「どうやらここは心臓移植専門の病院らしいな。
ま、病院というよりは、医院といったほうがいいのかもな。」
そうゆって、彼はカタカタしらべはじめた。
かれは、機械にとても強いので、よくものを調べてもらっている。
そのページをみても、あまり詳しくはかいていなかった。
「最近の手術の履歴があればいいんだけどな。
だいたい、こういう小さなところだと、裏になにかあるはずなんだ。
ぢゃないと、そんな簡単に移植用の心臓なんて簡単に手にはいらないぜ?」
ぼくは、なにもしらないので、いうことをきいていました。
彼は、そういうとなにか楽しそうな顔をしてコンピューターに向かいあっていました。

「おい、あったぜ?」
しばらくすると、彼からそんな言葉を聞きました。
「このページを作ったやつの裏を・・・」
彼がゆってること、あまりに難しくてよくわかりませんでしたが、
簡単にゆうとどういうことか聞いてみました。
「ああ、だからな、とりあえずわかったぜ。」
そういうと、彼のお楽しみもおわったらしく、なんだかつまんなさそうに僕に話しかけました。
そんな彼のつまんなさそうな顔が、なんとなくおもしろかったです。
「あれだな、日本人だな。どうやら、あっちで捕まってたらしい。
あっちでかなりひどいことをしたとかかれてるが、こいつ、どこかで聞いたことあるな。」
そういうと、彼はなにやら考え始めました。
僕の心臓は、日本人のもの。日本人。少しほっとしました。
もう少しです。誰だろう。
「そういえば、最近あいつとは続いてんの?」
だれ?わかんなかったけど、適当に答えておきました。
「こないだあったとき、連絡まってたみたいだけど、連絡してるのならいいや。」
そんなことをゆっていました。
アトデ、ドウイウコトカオシエテヤルヨ

名前

日本人、あとは簡単だぜ?
そう彼はゆっていたけど、本当にそうみたいでした。
戸籍なんかもあっというまに、、、
で、日本人、どこにすんでいたかというと、、、
ぼくの近所?
そんなことを聞いて、少しどきどきしてきました。
僕の近所にそんな人がいたのかぁ。
で、名前は?
名前は、マツオカタケシ
「こいつに関する記事みつけたよ。こいつ・・・」
そういうと、彼は言葉を飲み込みました。
なんだよ、早くゆえよ?
「これみてみろよ。」
そういって、僕に一枚の記事をみせてくれました。
小学生が神隠しにあう・・・
小学校から帰宅途中だった、小学3年生、松岡武くんが、行方不明に。
彼が学校をでてからのことをだれも知らないようでした。
まるで神隠しにあったようだとゆわれています。
「おまえ、こいつにこころあたりない?」
彼の顔が少し青ざめています。
「おれ、しってるよ、こいつ。」
え、え、え?僕は、知らないと思うよ。
オレハオマエノコト、オボエテルゾ

おじさん

小さい頃、僕はあるグループに入っていました。
その中では、僕は特別な存在でした。
なぜって?なぜだろう。
そうそう、僕のおじさんかな、とても怖い人だったそうです。
だから、みんな怖がってました。
違う、そうじゃない、みんなの親が僕には親切にしなくちゃっていってたんだ。
でも、ぼくにはなんにも関係ないのに。
おじさん、どうしたのかなぁ。
いつも、杖をついてました。
足にけがをしてたんだ。
あのおじさん、そういえば僕の近所で倒れていたんです。

キミ・・
かすかに声がきこえました。
公園のベンチのところで、おじさんが倒れてました。
「どうしたの?」
おじさんは、こっちをみるだけで、なにもはなせそうにありません。
ぼくは、どうしていいかわからなかったので、一度お家にかえろうと思いました。

僕が踵をかえして、家に帰ろうとした時、おじさんが僕の服をつかんでいました。
「みず」
近くにあったお水を、おじさんのところまでもっていきました。
僕の小さな手のひらでは、おじさんのもとへつくころにはほとんどこぼれてしまいました。
それでも残ったお水を、口元へたらしてあげると、おじさんは喜んでくれました。
「ぼうや、ありがとう。」
おじさんは、さっきよりは、お話ができるようになりました。
「ぼく、お母さんよんでくるね。」
そのあと、公園に戻ってみると、誰もいませんでした。

事故

ぼくは、性格がおっとりしてるので、グループのリーダーにはなりませんでした。
輪の中で、みんなと一緒に遊ぶのが好きでした。
ある時、一人の転校生がやってきました。
なかなかクラスにうち解けなかったので、僕がこっちにきなよ、って誘いました。
僕のメンバーは5人と、クラスの男子の中では多いほうだったんだけど、
さらに拡大しようと思いました。なんとなく、仲間を作りたかったんです。
人が多いほうが、グラウンドで場所をとるのにも便利です。
でも、その子はなかなか仲間にはいってくれませんでした。
それからしらばらくして、ぼくたちが、かくれんぼをしているときでした。
ぼくは、アパートの階段のところに隠れてたんだけど、
ちょうど、彼をみつけて、「おーい」って叫んだんです。
彼は気がつきませんでした。
遠くからふらふらした車が彼にむかって進んでいます。
ぼくは、なんとなく、危険な感じがしたので、彼のところまで走っていきました。
車は、もうすぐ目の前までせまっていました。
わーって叫びながら、僕は彼のところへ走っていきました。
それでも間に合わず、彼は引かれてしまいました。
彼にあったのは、それが最後だったきがします。

「おまえ、生意気なんだよ。」
「おい、どうしたんだ?」
クラスのほとんどの人は、彼が転入してきていじめの毎日です。
「なんだよ、そのかっこう。」
「俺たちと同じじゃないだろ。」
彼は、髪の毛をひっぱられたり、おされたりしてました。
僕たちが、休憩時間がおわって戻ってくると、彼はベランダにいました。
下を眺めて、次の瞬間飛び降りようとしました。
ぼくは、彼の手をつかんで友達に一緒にひっぱってもらいました。
「よけいなことをするなよ。」
彼はぼくにそういいました。
なんか、ちょっとかなしくなりました。
僕が彼を助けてから、彼はいじめられなくなりました。

そして・・・

ぼくは、このことを思い出しました。
そう、そのときのいなくなったクラスメイトの名前が、まつおかたけし。
そして、ぼくのなかにある、ぼくのこころ。
そのなかにいるのは、まつおかたけしだったんです。
「よくおぼえてたな?」
友達にいうと、彼は軽くうなずきました。
「ほら、おれんちにおいてる車のプラモデルがあるだろ?
あれ、まつおかからもらったんだよ。」
いま、ぼくはだいぶ軽い気分になりました。
手術はうまくいっていたので、すぐによくなりました。
それでも、寝ているときは、夢遊病のように、そとをうろうろしているそうです。
公園へでかけて、ベンチの上にすわっていました。
星空がみえます。
だれかがいいました。

夜空に星が輝いて見えるのは、暗闇のカーテンに穴をあけたからだよ。
その小さなあなから、神様が僕たちを見守っててくれるんだ。

僕の頭の中に、小さな声が響いてきます。
アノトキ、オレハウレシカッタンダゼ
オマエニタスケラレタトキ
オレハ、オマエニドウセッシテイイカワカラナカッタ
オマエノヤクニ、タチタカッタ
ダから、おれは。
俺は、おまえのために、あの場所にいた。
心配するな、俺は犯罪なんかおかしてねえよ。
あの場所にいるには、そういう肩書きが必要だったんだよ。
これ以上のことは、おまえには必要ないか。
どうして、だって?
あのとき、みたんだよ。
一度、クラスでUFOの話があっただろ。
あのとき、俺はみたんだ。
ほんのちょっとだけ。すぐ先の未来を。
俺の記憶は、そんなに長くは覚えてないだろう。
一度だけ、おまえにいいたかった。
ありがとう。

ぼくの体が、すーっと軽くなったきがします。
満天の星空に、吸い込まれたのかもしれません。
うっすらと意識がぼやけてきました。
ぼくは、永い眠りについていたのかもしれません。
手をにぎりしてめ、ぼくは起きあがりました。
生きている。
胸に手をあてて、深呼吸しました。
ここから、僕の新しい人生がはじまる。

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