部屋の片付けも一通り終わり、ひと段落して横になった時だった。
そこに小さな穴を見つけたのは。
俺は、子供のようにむくむくと好奇心が膨らみ、
飛び起きて、その穴を覗き込んだ。
その穴は、真っ暗だった。
「なーんだ。」
俺は、とりあえず残りの荷物を整理して、そのまま睡魔に身を任せた。
ん?
変な時間に寝た所為か、気付いたら夜の11時だった。
こんな時間か。
なんだ?
俺は、部屋に光の筋があるのを見つけた。
これは?
身体を起こし、その光に手を当ててみる。
ソレの元は、昼間見つけたあの穴からだった。
俺は片目を瞑り、その穴を覗き込んだ。
しかし、何かで栓がされているらしく、あちら側はみえなかった。
俺はしばらく考えて、物音を立てないように部屋の中を歩き、穴を開けるものを探した。
あった!
その時は、すでに好奇心がふくらみきっていた。
俺は、見つけた針を持って、またこそこそと忍び足でそこまで戻った。
そして、手にした針で穴の先に軽く刺した。
ごくん。
俺は、生唾を飲み込んだ。
心臓は、激しく高鳴っている。
手が震えるのを抑えながら、俺は光の源を覗き込んだ。
うっ
おれは、思わず手で口を塞いだ。
危うく、心臓が口からでてくるほど、驚き、興奮し、喜んだのだ。
光の先には、女性がいた。
風呂上りらしく、バスタオルで髪の毛を乾かしている最中だった。
下着姿の彼女はビールを片手に、ベッドの上に座ってテレビを見ている。
まさかみられているとは思ってもいないだろう。
彼女はなにも気にせずに、無防備な格好でくつろいでいた。
俺は、固唾を呑んで、その場に固まっていた。
こういったビデオを見たことがあるが、まさかナマでみられるとは。
俺は、そのあとの彼女の行動を電気が消えるまでずっと覗いていた。
俺は彼女のことを知っているが、彼女は俺のことをしらない。
そのことが、なんとなく不思議な感じがするのだが。
俺は、それから部屋の電気をつけないようにした。
こちらから光が漏れてばれるのを恐れたからだ。
これから、毎日この光景がみられると思うと、
興奮してなかなか寝付けなかった。
俺は、夜が来るのが楽しみでしょうがなかった。
他の人から見たら、随分滑稽にみえるだろう。
壁人間にでもなったようだ。
彼女には、恋人がいた。
たまに、彼女の部屋に来て、激しく愛し合っていた。
それを覗いて、興奮している俺がいた。
しかし、その幸せも長くは続かなかった。
ある日、俺は家に帰っていつものように彼女の世界へと旅立つ準備をしていた。
パンをほおばり、片目を壁に押し付けた。
しかし、今日はまだ彼女は帰ってはいないようだった。
部屋は真っ暗だった。
今日は、外泊か。
俺はしかたなく、ベッドに転がり宙をみた。
今日はどんな下着を着けているんだろう。
一人でニヤニヤしながら俺はそのまま眠り込んだ。
次の日も、彼女の部屋を覗いたが、彼女はいないようだった。
どうしたんだろう?
俺は、壁に耳をあて欹てた。
すると、微かに泣き声が聞こえてくる。
その声とともに、ゴリッゴリッという、鈍い音が聞こえてきた。
誰もいないと思っていた部屋に彼女が?いた。
その瞬間、全身鳥肌が立つのがわかる。
俺はまた、声を押し殺して、固唾を呑んだ。
なんなんだ、この感じは。
彼女が、泣いているんだよな?
俺は真っ暗な部屋の中を凝視した。
ガサガサ・・・
カチ、っという音と共に、彼女の部屋に光が点った。
俺は、しばらく光に眼を奪われ、後ろに倒れこんだ。
目の前が、チカチカして焦点があわない。
俺は手で眼を押えつけながら、反対の眼が使えるかどうか試した。
どうやら大丈夫のようだ。
暗闇の部屋の中の配置はしっかりと見える。
なにしてるんだろう、彼女。
俺は、再び除き穴に近づいた。
あれ?
穴を覗いても何も見えない。
眼がおかしくなったのかな。
俺は、目をごしごしとこすり、再び穴を覗き込んだ。
「みたな。」