らぶ・すとーりー ‘’†•中編

さがしにいこう。 この大地にきみのにおいがする。
あの世界でもきみをみつけることができたんだ。
ここでだって、きっとみつけられるよ。
俺は、きみを探しにきたんだから。
きみは、俺のことをちゃんとわかってくれる?
きみのためにうまれてきた、俺のことを。

しんじ、おきて・・・
体がいうことをきかない。
手に力をいれようとしても、ぐったりしているようだ。
意志が伝わらない。
れいな
ふっと体が軽くなった。
視界がはっきりして、あたりをみることができた。
「おい、おまえ。こんなところでなにをしている。」
おまえこそだれだ。
「ここは立ち入り禁止のはずだが。」
立ち入り禁止?
「患者かもしれないぞ。こいつを調べろ。」
周りにいた数人の兵士が俺の体を調べ始めた。
なに・・を、する。
「こいつ、こんなものをもってますよ。」
俺の指にはまっていたライオンのリングをはずそうとした。
そのとき、体が燃えるように熱くなった。
自分では信じられないくらいの力で、兵士たちを殴り倒した。
「はぁはぁはぁ、だからさわるなってゆったんだよ。」
ぐっとリングを握りしめた。

「そこまでだ。」
遠くの方から声が聞こえた。
太陽を背にその男は立っていた。
まぶしくて手で顔を覆う。
その隙に、男はすぐそばまでやってきていた。
首元には刀の切っ先が向いている。
う、俺はここで殺されてしまうのか。
しかし、そこでその男はただ俺の顔と指をみていた。
「おまえは・・・だれだ?」
少し驚いた顔をしている。
「俺は、シンジ。」

その男は、ミツナリとよばれていた。
この国を変えようとしているらしい。いや、守ろうとしていた。
敵は力をつけ、周りの国々を味方につけて、もうすぐ押し寄せてくる。
しかし、敵は一つではなかった。
もう一つ、それは、人ではない、悪魔の化身。
ミツナリは、その二つを相手にしていたので、
この国の力はだいぶ弱っていた。
そのとき、同盟国である、隣国の姫が急に病で倒れてしまった。
国中の優れた医者もさじをなげ、もはや不治の病といわれていた。
その姫が、うわごとで、シンジと呼んでいた。
王は、使いをだし、シンジという名のつくものを探していたが、
集めたはいいものの、どれが姫の呼んでいる者かはわからなかった。
しかし、ミツナリは俺を見たときに、その男が俺だということがわかった。
そう、それは、俺の指につけていたライオンのリング。

「そうか、おまえはシンジというのか。」
この国の王、ミツナリは俺を城へと案内した。
「どこからきたんだ?あそこで何をしていた?」
しかし、俺は朦朧としていた。
俺は、どこからきたんだ?あそこで何をしていた?
俺は、いったい・・・だれなんだ?
目を閉じて、軽く息をはく。
ふっと力が抜けていく。
「俺は、シンジ。わかるのはそれだけだ。」
ミツナリは、何か考え事をしていたが、じっと俺の顔を見つめていた。
ずいぶん長い間沈黙が流れた。
「今日はゆっくり休むがいい。」
そういうと、兵士が俺を部屋へと案内した。
ベッドに横になる。
そのまま深い眠りについた。

なんで俺なんだよ。ほかにもいっぱい男なんているだろう?
「なんでっていわれても。」
あの時はちょっと気分がのらなかったな。
俺は、嫌なんだよ。ほかのやつと笑顔で話してるおまえが。
「それは・・・」
そいつらに笑顔振り撒いてればいいぢゃん。
もっとおまえを愛してくれるやつがいるだろう?
そのとき彼女はまぶたを閉じた。
「あのね、理由はしんじのことが好きだからだよ。」
少し時間が止まった気がした。
「しんじのことが好きだから。」
しんじ。
しんじ。
・・・

「おい、シンジ。大丈夫か?」
目を開けると、そばによっちゃんがいた。
「あ、よっちゃん。ここで何してんの?」
「何してんのじゃないないよー。赤い目を盗みにきたのに。
たく、どこいってるかと思いきや。
早く盗み出さないと、老子にしかられちゃうよ。」
・・・
あ、そっか。そうだったな。
「で、ここはどこ?」
「そうそう、ここは客間だよ。
どうやってあいつらを信用させたんだ?」
「んなことしらねーよ。」
「よーし、さっさとドロンしちゃおうぜー。
さっきは急に倒れたりしてびっくりしちゃったよ。
あとほんのちょっとだったんだけどなー。
眠り薬があんなに早く切れちゃうとは。あっ!」
そういうとよっちゃんは、俺の方から目線をはずした。
ん?どうしたんだ?あっ、まさか・・・
「おまえ、まさか俺にも眠り薬をかがせたわけじゃないだろうなー?」
そういうと、俺の言葉にびっくりしたよっちゃんは、
汗をだらだら流しながら立ち上がった。
「よ、よし。今のうちに盗みにいこう。」

たんつたんつたったん、たんつたんつたったん♪
バックミュージックがなり始めた。
って、よっちゃんが口笛ふきながら、任務を遂行している。
「よっちゃん、おまえなにやってんだよ。」
キランと目を輝かせながら、俺に答える。
「やっぱ、この音楽が好きなんだよ。
このイメージにあってない?」
おいおい、よっちゃん、そんな余裕かましてていいのかよ。

「なにをしている。」
その声が聞こえたときのよっちゃんの顔ったら、なかったね。
目が点になってたし。
「シンジ、おまえ・・・」
ミツナリは、俺になにかいいたそうな顔をしたが、
よっちゃんがどすどすいわせながら走って逃げていくのをみていた。
俺の手には、いつのまにか赤い目が握られていた。
ちっ、あいつもう作業終わってたのか。
「おまえに話がある。おまえは、いったい何者なんだ?」
なんだ、妙なことをいうやつだな。
「おまえのその指にはめているもの、それはどうしたんだ?」
指にはめてるもの?あ、これか。これは・・・
しんじ・シンジ・・・
頭の中が、一瞬分裂したかのような気がしたが、すぐに元に戻った。
俺は、しんじ。俺は、シンジ。俺は、・・・
れいな
その言葉を聞いたとき、ミツナリはいった。
「やっぱり、おまえが・・・」
そういうと、紙をだし、サラサラと文字を書きつづった。
「これをもって、隣国のルミナへいってくれ。
そこに、おまえを待っている人がいる。
もし、おまえが・・・」
本当に、姫を助けることができるあのシンジなら、
あの魔物を倒せるのは、この男ということになる。
ミツナリはその場を後にした。

「ねぇ、老師。おれ、あそこへ潜入したときに変なこといわれたんだけど。」
みっしょんぽっしぼーということで、とりあえず老師の元へと戻ってきた。
もちろん、よっちゃんは陰に隠れている。
「そうか、古より伝わる言葉を知っているものがほかにもいたのか。」
「いにしえ?」
おっさん、あんたいくつなんだよ?
フッと空から剣が襲いかかってきた。
危ない、心を読まれたか。
「あれは、遠い遠い昔、この地はドラゴン族が天下だった時、
人はやつらの餌だった。
われわれは、それが当然だと思い、ただおびえて暮らすだけだった。
しかし、ある若者が、ドラゴンと戦おうと言い始めた。
そのものは、自分は選ばれたものであるといい、一人で戦いをいどんだのじゃ。
しかし、さすがにドラゴンは強く、もはやその若者も最後を迎えようとした時、
一人の術士があらわれた。
その手からは、紅き炎が放たれ、ドラゴンの身を焼き尽くしたのじゃ。
そして・・・・」
おいおい、いつまで続くんだよ。早く古より伝わる言葉を教えろよ。
って思うやいないや、目から光が・・・でてくるわけないか。
「それで?」
「それで、その若者は、ドラゴンを一匹倒すことができた。
その血をは、死を超越し、永遠の命を与える。
その牙は、すべてのものを貫き、切れぬものは存在しない。
その皮膚は、なにもかもから身を守る。
そして、その目玉が、古より伝わるリングなんじゃ。
それは、時を越えてつながるリング。
その一つは、おまえがもっているそれ。もう一つが・・・」
「レイナ姫ってことですよ。」
後ろから怪しい男が現れた。

髪の毛がぼーぼーで、目が隠れてるそいつ、名前はシュン。
依然どこかであったような・・・
「リングが選んだのは、彼ですか?」
老師は軽くうなずいた。
「じゃあ、彼が伝説の勇者の血を引く・・・」
「その通り、このシンジが、あの魔王、ダルトディヒを倒すシンジだ。」
って、勝手に話が進んじゃってるんだけど。。。
「俺が見つけたこの指輪、持ち主を選ぶあの伝説のリングだったなんて。」
「そう、そして、わしがそのことを聞いて、もうどのくらいたったことか。」
「で、老師、結局なにがいいたいんですか?」
二人の世界にはいっていた老師たちは、ふいにこっちの世界に戻されて、
あたりをきょろきょろしてる。
「だから、おまえが伝説の勇者なんじゃよ。さっきの話ででてきた術士が、
いつかこのリングをはめることができれば、そのものこそが勇者なんだ・・・
とゆってたのじゃ。」
ゆってったのじゃ?
「そう、わしはそのときその場にいたのじゃ。あれは思い起こせば・・・」
思い起こさなくもていいって。
「わしは、その勇者が心配で、あとをついていったんじゃ。
そのとき、そういう光景をみてしもうた。
後からドラゴンの血をちょっとだけ飲んでみた。
すると・・・今まで生きてしまった。」
へー、じゃ、今いくつだよ!?
「でも、唯一失敗したことがある。どうせ飲むなら、もう少し若ければ・・・」
要するに、俺がその眠り姫、レイナを起こせるってことだろ?

ずっと前に聞いたことがある、眠り姫。
治療のために国中から医者を集めたが、ついには目覚めることがなかった。
そう、その名前がレイナ。
俺は、すぐに姫のもとへと駆けつけた。
途中へんな爺さんにあった。
「お待ちしておりました。ささ、どうぞ。」
俺は、この爺さんをどこかでみたことがある。
「それにしても、ずいぶん若い肉体を手に入れられましたなぁ。
これで、われわれの支配ももうすぐです。」
わけわかんないことをゆってる。。。
「今から、例の姫のところへいかれるのでしょう。
私もお供します。」
そういうと、かってにのこのこついてきている。
俺が、剣を一降りあびせたが、ヒュンと消え、再び現れた。
「ご冗談を。」
そして、その爺さんは姿を消した。

シンジとなのるとすんなりお城へ入れてくれた。
すでに、ミツナリから話が通っているようだ。
それにしても、ルミナは美しい国だ。
花は咲き乱れ、動物は駆け回る。
まるで、この国だけは戦争とは無縁のような気さえする。
ただ、城内の空気は重かった。
だれもが悲しみで目が赤くなり、はれた感じがする。
「そんなに愛されているのか、レイナ姫は。」

大臣が俺を案内した。
「姫をなんとかしてください。」
周りの人々の訴えるような目が、痛い。
本当に、俺でいいのか?
マイナスの気があたりを満たしている。
玉座についた王様も、力無い様子だ。
しかし、俺の顔をみると、ほんの少し元気がでたようだ。
「そなたが、あの、、、シンジか?」
俺は、ミツナリにもらった手紙を渡した。
「頼む。。。レイナを。。。クレア。」
そういうと、そばにいた女性がよってきた。
「私が案内します。」

彼女は今にも消えてなくなりそうだった。
とても、軽そうで、さわると壊れてしまいそうな、
のぞき込むのもためらってしまうくらいの儚さ。
俺には、これが現実でも、彼女にはリアルではないのだろう。
生命を感じない。
俺は、姫の指をみた。
そこには、俺のと似ているリングがはめてあった。
姫のリングには、少しへこんだ部分がある。
俺のリングの出っ張った部分を、かぶせてみた。
その瞬間、リングは粉々に砕け散った。
パッと光輝いたかと思うと、その光は姫の体へと吸い込まれていった。
「レイナ姫。」
横からクレアが叫んだ。
姫の目がぱちりと開いている。
「しんじ」
俺のことを、そう呼んだ。

「とうとう、このときがきましたな。」
ヒュッとそばに爺さんがあらわれた。
「これで、われわれは永遠の力を手中に収められるのです。」
そういうと、ぶつぶつと何かつぶやきだした。
はっと、クレアが爺さんに襲いかかった。
しかし、そのときはすでに遅く、爺さんの体は変化していた。
なにもかも一瞬だった。
「よっちゃん、いるか?」
「御意」
そういうと、よっちゃんは、片手を爺さんに向けてぶつぶつ唱え始めた。
しかし、所詮よっちゃん。爺さんにさえ力負け。
爺さんが、姫の体に触れようとした。
クレアが悲鳴をあげた。
しかし、爺さんの腕が消えていく。
「まさか、あの呪文を施されているとは・・・」
爺さんは、姫にふれようとした腕の部分から体全体へと消えかかっている。
「ダルトディヒ様。永遠に・・・」
そう言い残すと、爺さんは消えてなくなった。

その夜は、国中が姫の目覚めを祝った。
「やはり、そなたが伝説の勇者の血を引く者。」
王様は、はちきれんばかりな笑顔で俺に話しかける。
レイナ姫は、まだ完全に回復したわけではないが、
王様の隣でにこにこと微笑んでいる。
「これで、この国は蘇った。共に、ミツナリ殿と戦おう。」
目の前のテーブルにご馳走が並んでいる。
俺はワインを片手に、バルコニーにでた。
闇夜に大きな月が光輝いている。
町の家々は、どこも明かりがともっている。
冷たい風が、気持ちいい。
「シンジ様。」
ふりむくと、クレアが俺を見つめている。
彼女の心は、まだ晴れ渡ってはいなかった。

「シンジ様、私は姫のためなら死ぬ覚悟ができています。
姫を目覚めさせてくれたあなたにお願いがあるのです。
姫を、どこか遠くまで連れ去ってください。」
そういうと、彼女は俺の胸に顔を埋めた。
ぐすんと泣いている。
「どうした?」
彼女は、俺の顔を見上げると、こういった。
「魔王がきます。」

クレアは、爺さんが消える瞬間、魔王の手がそばまでやってきているのに気づいた。
しかし、それはクレアにしか見えなかった。
もう一度、魔王に呪いをかけられたら、姫はどうやって目覚めるのだ。
俺は、なにもしらない。
魔王から逃げる。本当にそんなことができるのだろうか?
俺は、姫にうち明けた。
「魔王があなたをねらっているそうです。」
そういうと、ぱちりと瞳を閉じた。
なにもかも彼女にはわかっているようだった。
「なぜ、あなたは魔王に狙われているのですか?」
そういうと、姫は、ひとさしゆびを俺の口にあて、首を横に振った。
そっと、彼女は俺の胸に手をあてた。
その瞬間、いくつもの記憶が俺の中に流れ込んできた。

ねぇ、とおちゃん、ここきれいなところだね。
「そうだよ。ここでしばらく世話になるとしよう。」
とおちゃん、ぼくあの子と遊んでていい?
「おとなしくしていなさい。」
おれは、とおちゃんが目を離してる隙に、あの子と遊んだ。
ねぇ、きみここでなにしてるの?
 おはなつんでるの。
ぼくも手伝ってあげよっか?
 うん。
ここ、きれいなお花がいっぱいだね。
 え?お外は、お花いっぱいないの?
うん、この国が特別なんだよー。ぼくしってるよ。
だって、ぼく、とおちゃんといろんな国を旅してまわってるんだー。

 名前なんていうの?
シンジ。
どうしたの?元気ないけど。
 変な夢をみるの。
え、どんな夢?
 ううん、なんでもない。ごめんね。
ぼくね、とおちゃんと一緒にいろんな国いって、いろんな悪いやつ退治してるんだー。
怖いことだって、いっぱいあるんだよ。
だから、ぼくもとおちゃんみたいに、わるいやつやっつけてやるんだ。
きみの変な夢だって、ぼくがやっつけてあげるよ。
 ありがとう。
あ、とおちゃんにみつかった。ぼく、そろそろいくね。
 うん。
またね。
 うん。
あ、そうだ。きみにこのお守りあげる。
とおちゃんが、これはお守りだから大事にしなさいっていってたんだ。
なくしちゃだめだよ。

俺、思い出したよ。
俺、ずっと一人だと思ってた。
とおちゃん、いたんだ。とおちゃん、殺されたんだ。魔王に。
俺ととおちゃんがいた村は、魔王に襲われて消えてなくなったんだ。
そのとき、師匠が助けてくれたんだ。
俺、ずっと師匠に育てられたと思ってた。
でも・・・
俺の中で、血が燃えている。
魔王、姫、遅う、助ける。。。
とおちゃんがいってた。
そっか、魔王め。姫を生け贄にするきだったのか。
あの月が消えてなくなる夜に。

姫は、意識をなくしかけた。
回復していなかった体で力を使い果たしたことで、
自分を支えるのもやっとだったんだろう。
俺はそっと、だきしめた。
魔王は、姫を生け贄にする。
誰にもふれられないよう、呪いをかけて。
眠りながら、姫の力を高めていた。
目覚めと同時に完全な力を得た姫を喰らう。
俺は、お姫様だっこで、彼女のベッドまで運んだ。
俺に思いを伝えるために力を使い果たし、彼女は眠りについた。
もう心配しなくていいんだよ。
俺が、魔王を倒すから。

俺は、ルミナをでた。
よっちゃんは、とぼとぼついてきている。
「あれだよなー、よっちゃんももう少し鍛えていないと、
危ないところだったぢゃん。」
よっちゃんは、さらにどんよりとした空気を発している。
「でもさ、まぁ、無事でなにより。
あー、よっちゃん今から魔王退治しにいくんだけど、
あれだったら、師匠のとこにいってもいいよ。」
その言葉で、さらに落ち込むよっちゃん。
「お、おれだって、やってやるよ。」
しかし、虫の声ほどしかでていない。
「シンジ様、まってくださいー。」
クレアが追いかけてきた。
「私もお供します。」
しょうがないなー。これで仲良し3人組っと。

「ところで、しんじ今どこにいってんの?」
よくぞ聞いてくれました。
「まさか、もう魔王に戦いを挑むわけないでしょ?」
まさかね。
「おれのとおちゃんがさー、いろんな国を旅してる時、
伝説の武具ってやつ?集めてたんだよ。
ほら、しらないかなぁ?太古にいたドラゴンから作られたってやつ。」
「ああ、あの師匠がゆってた?」
「それ。やっぱ、魔王退治には必要でしょ?」
うんうんと、二人ともうなずいている。
「ところで、それはどこにあるの?」
「それは・・・」
ラディットっていうところ。
今はもう、この世に存在しない町。

町につくと、ていうよりそこは草木一本も生えていない死の町。
魔王の力がこれほどとは。
二人とも少し不安になっているようだった。
「早く、伝説の武具とって、この場を離れようぜ。」
「そうしようよ。」
俺の記憶によると、町の中心に井戸があって、そこから数歩だから。
あ、あの涸れ井戸だ。あそこから・・・。ここだ。」
よっちゃんに目配せして、魔法を唱えさせた。
使えるやつは使っておかないとね。
バサーって砂がいっきになくなって、そこから一本の階段が現れた。
「ひゅー、すげー。」
俺たちは、中へと入っていった。

奥へと降りていっても、なにも見あたらない。
「しんじ、本当にここにあるのか?」
そんなことゆわれても・・・不安になってきたな。
「疲れちゃった。」
クレアが岩に腰を下ろした。
「きゃっ」
「どうした?」
振り向くと、クレアが変な格好で転がっていた。
「なにしてんだよ。」
はははと、よっちゃんと笑っていたが、「あっ」とクレアが叫んだ。
「ここみて、この岩おかしくない?」
そういうと、クレアは岩の上からゆっくりと手を下ろしていった。
しかし、その手は岩をスルリと抜け、もう少し低い部分へと飲み込まれていった。
俺が試しにさわってみると、中に何かがあるのがわかった。
つかんで引っ張り出すと、ブルーに輝くカブトがでてきた。
一瞬にして具現化したカブトは、それ自体から力が放たれていることがわかるほど光り輝いている。
「もしかして、魔王に気づかれないように封印してたんじゃ?」
そうかもしれない。こんなに力を放っていれば魔王に見つかってしまう。
昔の人はよく考えたものだ・・・って、とおちゃんか。
ということで、伝説の武具、勇者の剣、カブト、ヨロイを手に入れた。
なんか、これで魔王も倒せそうだな。

さて、そろそろ魔王を倒しにいきたいところだけど・・・
「魔王がどこにいるか知ってる?」
ふたりとも、首をぶんぶんよこにふっている。
おいおい。
「そんなしんじは知ってるの?」
それは・・・知らない。
「うーん、だれか魔王のこと知ってる人いないかなぁ?
俺が魔王のこと知ったのも、つい最近だし・・・」
魔王、まおう・・・
「あ、そういえば。」
「どうした?よっちゃん。」
「そういえば、赤い目をとりに行ったときのこと覚えてる?
あのとき、小耳にはさんだんだけど・・・」
「あ、そういえば。ミツナリが魔王と戦ってるんだった。」
ざっつらいと!
「たまには役にたつね、よっちゃん。」
「たま・・・(もごもご)」
よっちゃんが顔を赤くさせて熱弁しようとしたところを、
クレアがうまく口をふさいだ。
うーん、クレアってば。この短い旅でよくよっちゃんを押さえ込めるほど成長したなぁ~。
「よし、じゃぁミツナリのところへれっつらごぉ~☆」

とても静かだった。
門番は、俺の顔を見ると中へと迎えいれてくれた。
「シンジ。」
ミツナリは、俺を快く迎え入れてくれた。
「ルミナ国を、レイナ姫を救ったそうだな。」
俺は、えっへんと胸を張って見せた。
「しかし、今、この世界を一つにする合戦の準備をしている。
あまり盛大なもてなしができないが、ゆるりとくつろいでくれ。」
わかった。
「そういえば、俺、魔王を倒しに行きたいんだけど。
場所がどこかわからないんだ。ミツナリは知ってる?」
ミツナリの目が厳しくなった。
「伏魔殿にのりこむのか。あそこから帰ってきたやつはいないんだぞ。」
よっちゃんは、ちょっとどきどきしている。
「でも、俺しかできないんだ。きっと、これは俺が生まれてくる前から決まってたこと。」
「そうか。おまえしかいないか。」
「大丈夫だよ。俺には、この伝説の武具があるし。」
なぁ、とおちゃん。
「これをもってゆけ。これはレイナ姫から預かっていたものだ。」
「レイナ姫から?」
クレアが叫ぶように声をあげた。
「そう、姫が眠る前、私は一度会っていたのだ。
そのとき、もしシンジという旅人がやってきたら、これを渡してほしいと。
それは、シンジ、おまえのことだろう?」
そのペンダントは、ライオンを象っていた。
レイナ姫。
「生きてかえってこいよ。」
おう、もちろんだ。
勇者しんじは、そう簡単にはやられないぜ。

れいな、もうすぐだね。すべてが終わるのは。

「しんじ、あの城かなぁ?」
闇の中に青白い空気を漂わせている。
クレアの体が少し震えているのがわかった。
「だいじょうぶか?クレア」
こくんと、首をたてにふる。
「これで、レイナ姫は助かるんなら・・・」
よっちゃんもぶるぶるふるえていたけど、あえてなにもゆわなかった。
「そういえば、レイナ姫となにを話してたんですか?」
クレアがちょっと笑みを浮かべている。
「そんなたいした話じゃないよ。ただ・・・」
「ただ?」
約束したんだ。俺が必ず魔王を倒すって。
そして、そのときは・・・

ドックン・・・
ドックン・・・
ドックン・・・

「ザイン。」
目の前に、巨大な化け物が現れた。
よっちゃんが、ひぃ・・・って腰が抜けたようだ。
「ザインか、その名前呼ばれるのは久方ぶりだ。
まさか、おまえもあそこからやってくるとはな。」
「ザイン・・・?ザイン=ダルトディヒ?これが・・・」
ぐわぁーと牙と牙の間から毒々しい息を吐いている。
「不不不。無駄なんだよ。しんじくん。」
ぶぅんと巨大な手を一降りした。よっちゃんに直撃。
赤い血が舞う。
くっ。
「すべて幻想。我は魔王なり。人の心に巣くう神なり。」

時は流れる。
ザインは、魔法を使う。
よっちゃんが、なんとか保護魔法を唱える。
クレアが癒しの魔法を使う。
俺は・・・、俺の攻撃がザインにはきかない。
この伝説の剣でも、ザインにはきかないということなのか。
そんな、ばかな。。。
ドクンという鈍い音がした。よっちゃんがふっとんだ。
ザインがなにかブツブツ唱えている。
クレアは、自分を犠牲にして攻撃をする呪文を唱え始めた。
「ゴミめ。すべて消え去れ。」
右手に大きな力が集まり始めた。
それをみたのは、これが二度目。
このままでは、まずい。
クレアの攻撃は全く聞かない。
ザインの目から、一瞬妖しい光が放たれたかと思うと、
クレアはみるみる人間の体から鳥へと変わっていった。
「ふははは。おまえにお似合いだな。」
くそ、くそ、くそ。
せめて、こいつらだけは。
「神の名の下に・・・エイク」
ブウンと丸いわっかがクレアとよっちゃんを包み込む。
そして、次の瞬間、彼らを遠い世界まで運んでいった。
「ふ、無駄なことを。」
れいな。
俺は、やっぱり、きみに逢えないんだね。
俺、知ってたんだ。
心の記憶。
きみとの記憶。
初めてあの場所で会ったとき、傷がすべてを教えてくれた。
怖かった。できれば、生きたままきみに会いたかった。 でも・・・今なら大丈夫。
俺は、きみのために、この命を捧げる。

俺は、ザインの体の中へと飛び込んだ。
右手が紅く輝いている。
すべての力がそこに集まっている。
俺は、ザインの心にふれた。
なにもない。
「今、ここにいるのは俺とおまえだけだな。」
俺の体が、少しずつ腐りかけてきた。
「おまえも、ずっと一人だったんだな。」
俺は、目を閉じた。
俺も昔は、一人だった。でも、今は違う。
れいな
いつか、また逢おう。
俺は、自分の胸に剣を刺した。

ドッ

黒い血が流れ出る。
「おまえ、なにを・・・」
ザインの身体がふるえ始めた。
「おまえも、もう一人じゃないんだ。俺が、おまえと一緒にいてやるよ。
俺の身体の中で、永遠に眠れ。」
ザインは少しずつ俺の胸の傷に吸い込まれていく。
「そんなことをすれば、おまえはもう転生できなくなるんだぞ。」
ぐおぉぉと低い叫び声があたりに響く。
「ふふ、そんなことはわかっているさ。れいなさえ目覚めれば。
俺たちは、いつかまた逢えるさ。」
シューっと音を立てながら、ザインの身体は小さくなっていく。
「ワ・レ・・は、永・遠に・・・ふ・滅・・・」
全てが終わった。

悪に満ちた俺の身体が朽ち果てるのも時間の問題だ。
少しずつ、ひからびている。
俺は、歩き出した。
この呪われた身体を、この場所においておくわけにはいかない。
誰かがこの場所に俺を捜しにくるかもしれない。
もう、二度と目覚めさせてはならない。
誰にも見つからないところへ。
誰からも、ふれられないところへ。
ザインの怒りが消えてしまうまで・・・

ラブストーリー 後編へ

フォローする