交差点

すぐに彼だとわかった。
人ごみの中を少し猫背に歩く癖のある歩き方、
早足で歩くスピードもあの頃と何も変わっていない。
信号待ちの間、彼は時計を眺めながら足踏みをしている。
急いでいるのかしら。
誰かと待ち合わせに遅れそうなのかしら。
私がもし彼との恋を遠い昔にかんじていたのなら彼に声をかけることもなかったろう。
無意識のうちに彼の名前を呼んだ。
横断歩道の途中で振り向いた彼は驚いた顔をして私の瞳の中にいた。

「久しぶり。こんなところで会うなんて」
「ああ、仕事でこの辺りをまわっているんだ」
「元気にしてる?」
「ああ。君は?」
「なんとかね」
なんとかね、、、私はこの言葉に自分自信がうまくいっていないということを無意識の内に伝えようとしていた。
「5年ぶりぐらいか?」
「もうそんなになるのね」
「あいつとはうまくやっているのか?」
私が彼から離れた原因をつくった男とのことをきいた。
「あは、ああ、あのあと別れちゃった」
「そうか。」
「ねえ、これからランチでもいっしょにどう?」
「わりい。これから寄って行くところがあるんだ」
「そっかあ。またこんどにしましょう」
「そうだな。またどこかで偶然あうかもしれないしな」

私と彼は5年ぶりに横断歩道にならんだ。
信号が青に変わった。私たちは別々の方向に歩き始めた。

「ママー」と5歳になる娘が駆け寄ってきた。
「あら、早かったのね。一人でトイレにいけるようになって、偉い偉い。」
「うん。」
「ママ、さっき一緒にいた人だあれ?」
「道がわからないって言うから教えてあげてたのよ」
「ふーん」
「さあ、お昼食べよう。何が食べたい?」
「お子様ランチがいい!あとクリームソーダも」
「よし、急ごう」
「わーい」

娘の手をとって歩き始めた。自分の人生を。

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