私の周りに、人が集まってきた。
一人一人の顔はみえないけれど、胸に紫色の石をぶらさげている。
わたしの意識は遠くへ飛んでいきそうだった。
巨大な暗闇が、私の体に貪り、力がどこかへと消えていく。
一人が私に石を近づけ、消えた。
また一人、石を近づけ、消えた。
次々に消えていく人々。
闇はやがて薄れゆき、淡い光に包まれる。
石をもつもの 選ばれしもの
闇を切り裂き 光を与えしもの
世界のへそへと・・・
そして、私は目が覚める。
『また、いつもの夢をみた。』
私は、そう思い天井を見上げた。
でも、何かが違う。いつもの夢と・・・
日が昇り、闇も広がる。
この世界には、太陽と陰陽というものがある。
世界の二つをこれらが照らす。
太陽は、大地に力を注ぎ、陰陽は、大地に安らぎを宿す。
あ、そうだ。思い出した。
今日の夢は、いつもみる夢と確かに違っていた。
それは、最初の下りだ。
巨大な星一つ。微小な光七つ。
衛星は、七色に光り、巨大な闇を打つ。
一人、また一人闇を切り裂くもの。
次々と、集まりて、世界を救わん。
・・・
私たちは、みな同じ夢をみた。
目が覚めると、手には紫の石を握りしめていた。
町の外は、化けガラスが飛んでいる。
しかし、この石をもってからは、おそわれることはなかった。
皆、この石に不思議な力があるのを確信した。
夢は毎夜続く。
『世界のへそ』になにがあるのか。
わたしたちは、この世界にある、世界のへそへと集まった。
ザインがこの世を漆黒の闇につつみこんでいく。
右手を振りかぶると、空がきれ、光が消え、闇とかす。
左手を振りかぶると、地面がわれ、人を飲み込み、廃墟と化す。
「我が名は、ザイン。この世は、わたしのものだ。」
そういうと、ザインの笑い声がこだまする。
詰め寄る兵士をなぎ倒し、赤く染まる。
「もうすぐだ、なぁそうだろう?」
そういうと、ザインはこちらをみる。
おまえを倒そうとするなんて、なんて馬鹿なやつらだ
「まだ、力が足りない。」
幾千、幾億の血が・・・
みなが怯える闇は、急速に浸透し始めている。
そして、目が覚める。
そのとき、一つの言葉だけが、頭の中にはっきりと残っている。
『ザインを倒せ』
「よし、そろそろ出発しよう。」
わたしは、この小さな木の家をどこかでみた気がします。
どこだか思い出せませんが。
みんなが出発している。
ここには、もう二度と戻ってこれない気がする。
私を含めた七人は、この世界のへそからいったん紅海にでて、
東国を回りこんで、黒海にでる。
この世界は、大きく、四つの国と、四つの海があるという。
東は留皆<ルミナ>、西のトウナ、北のヤクナ、南のマリナ、
そして、その外海を、紅海、黒海、青海、白海、といい、
内海を、死海という。
世界のへそは、その死海の真ん中にある。
この海は、名前に似合わず、生命が宿る母なる海といわれている。
頭の中で、空に何か飛んでいる風景を思い出す。
「どうした?」
マスターが私に話しかけてきた。
「いいえ、別に。」
しばらく私をみていたマスターは、
「ゆーは、これがみえますか?」と訪ねてきた。
「白い糸ですか?」
マスターは、軽く頷いた。
「そう、あなたにはやっぱり見えるのですね。
しかも、白い糸ということは、あなたは半人前。」
マスターは、周りを気にしながら、小声で話し始めた。
「あなたは、いつかもう一人の自分に会うでしょう。
あなたは、まだラビトになっていません。
あなたが、もう一人の自分に出会えれば、
忘れられた記憶も、体も、なにもかもが元に戻ります。」
「もう一人の自分?」
「そうです。あなたは、この世界だけでなく、
未来か、過去か、それとも違う世界に、もう一人のあなたがいるのです。
ラビトととは、本来ラクビト『落人』と呼ばれ、
どこかの世界から、こちらに落ちてきた人のことをいうのです。
あなたがこの糸をみることができたことがなによりの証。」
うっすらと記憶の断片を思い出した。
わたしの名は、つばさ。
わたしは、つばさ。
それ以外は思い出せない。。。
ほかのことを思い出そうとすると、頭が割れるように痛い。
「今は、無理だ。ゆっくり思い出せばいい。」
マスターは、指をちっちっと横にふった。
「マスターは、なんでそんなに物知りなんですか?」
彼は、目を細めて私に教えてくれた。
「それは、私もラビトだからです。」
マスターは、本名は隠してるけど、
違う世界の住人らしい。
どちらの世界にも、ちゃんと存在して、
どちらの世界にも、ちゃんと意識がある。
マスターは、ダブル、つまりあちらもこちらも100%の人間。
私は、ハーフ、まだまだ50%の半人前。
彼の話だと、魔王を倒した勇者のお供をしていた人は、
彼のお兄さんで、自分も魔王を倒すことを夢見ているらしい。
「え?お兄さんは、今なにをしているんですか?」
「はい、兄は、お友達と職業訓練学校にいってます。」
「職業訓練??」
「あ、あちらの世界の話です。こちらの世界では、今はのんびりしているはずです。
兄も、ダブルなんです。」
「おにいさんは、魔王を討伐には参加しないんですか?」
「彼は、前の戦いの傷がまだ癒えてないようで。。。」
「そういえば、勇者さまは、今どこにいるんですか?」
「兄もわからないみたいです。ただ、あちらの世界では元気に勇者をしているようです。」
「え?勇者さまも、ダブルなんですか?」
わたしは、びっくりした。
ダブルがいっぱいいることじゃなくて、勇者さまにあえるかもということです。
「ただ、あの人は、なに考えてるかわからないですよ。」
マスターは、ちょっとだけいやそうな顔をした。
ダブル、それは、二つの世界に住み、二つの体をもち、
二つの意識を操ることができる人。
まるで、夢の世界と現実の世界のどちらにも住んでいるような感じだ。
わたしがダブル?
もう一人のわたしはどこにいるの?
今のままだと、私はわたしじゃないの?
『いつか逢うべきときに逢います』と、マスターがゆってた。
人の運命は、タイミング。
逢うべきとき、逢えるのだ。
と、マスターがゆってました。
でも、逢わなかったら、逢えないんだから、
そのままじゃん、とつっこもうと思いましたが、
あんなに真剣な顔でゆわれると、そんなことゆえなくなります。
「なにこそこそ話てんだ?そろそろ船をだすぞ!」
キャプテンロジャー、じゃなかったジャックが叫んでいます。
海の男で有名なロジャー。いったいどこへいったのでしょうか。
「むむむ。やつはいい男じゃったよ。」
そばからおじいさんが話しかけてきました。
「おぬしも通じゃのう。」
おじいさんは、地獄耳です。
「さて、乗り込むかの。」
私たちは、魔王討伐の旅に出ました。
おじいさんとサリーとゴンザは、デッキのところでティータイム。
マスターは、眠ってるようです。
ジャックとウルムは、なにやら言い争いをしています。
私には関係ないようなので、とりあえず船内に戻って、探索です。
船って、意外と人がいっぱいいるのでびっくりです。
「よぅぼうず。おまえも手伝っていけよ。」
そういって、リンゴを一つもらいました。
厨房にも、人がごろごろしています。
船乗りの体は、ごつごつしてて、海の男って感じがします。
しばらく、ここでお手伝いをしていました。
「おじさんは、ずっと海の上で生活してるんですか?」
「おじさんだと?世界一の名コックを捕まえといて。
俺様は、ロビンだ。次からはロビンさんかロビンと呼べ。
おじさんなんて、むずがゆくて鳥肌が立つわ。」
そういうと、ロビンはちょっと照れ笑いしていました。
ずっと、海の上で生活をしている人たち。
この人たちの心も、海のように青く澄んでいるようです。
「そういえば、おまえは記憶喪失だってなぁ?」
ロビンは私の頭を押さえながらにっこり笑っている。
「まぁ、心配すんなや。いずれ思い出すさ。」
ロビンは、テーブルの上に人差し指をタンタンたたいてリズムをとっている。
「あ?わりーわりー、つい癖でな。暇なときは、こう体が動いてよ。」
わたしの視線が、指先にいっているのに気づいたロビンはあわてて動きをやめた。
「いや、この前乗せた変な男にうつされたみたいでよ。」
そういうと、ロビンは話題を変えた。
「そういえば、最近龍神様がお怒りのようだな。」
ロビンはひとりでうんうん考え込んでいる。
「しってるか?龍神様。海を守る水竜さまだよ。
最近、海が荒れることが多いんだ。これは、ザ・・(ごほん)、
だれかの影響じゃなかろうかという噂だか、
俺様は龍神様がお怒りになっているんじゃないかと思う。
これは、俺様の勘なんだけどな。」
そういうと、ロビンはまた一人でうんうんうなずいてる。
「海が荒れるとやっぱり航海は難しいんですか?」
にやりとロビンは得意げになった。
「いや、俺様たちの腕なら、大丈夫だ。
特に、ジャックの腕は一流よ。ただな・・・
海が荒れると、海が割れやすくなるんだよ。」
「海は、全てを飲み込むんだ。」
ロビンは少し険しい顔をした。
ドンッ
今まで静かだった船の揺れが大きく揺れ始めた。
「な、なんだ?」
ロビンがすぐに上と連絡をとった。
「どうした?」
てきだ
「おい、ぼうず。敵がきたんだってよ。
ここでおとなしくしてたほうがいいんじゃないか?」
わたしは、本当はいきたくなかったんですが、
おそるおそる上に上がりました。
上はすでに戦いの最中。
小さな船の集団が、この船を囲んでいました。
ジャックもウルムも、みんな戦っていました。
サリーなんか、まだあんなにちっちゃいのに。
「あぶない」
サリーに向かった矢をゴンザが受け止めました。
「サリー、危ないから、なかへ・・・」
タンッタンッ
ゴンザの背中に矢が次々とつきささりました。
サリーが泣きそうな顔をしています。
「お、おらは選ばれたんだ。大丈夫だ。
ほ、ほら、これをもってる・・か・ら・・・」
そういうと、ゴンザはその場に倒れ込みました。
マスターの姿はありません。
どこにいったんだろう?
「ぼうず、おまえ下に戻ってろ。」
ロビンが剣を振りながら叫んでいます。
どうすればいいんですか?
どうすればいいの?
私の目の前で、次々と人が倒れていきます。
おじいさんは、杖がおれているのに、まだ敵に向かっていました。
ウルムも敵の矢にうたれ、倒れています。
まだ戦っているのは、ジャックとロビンと船乗りたちです。
「おまえたち、下にさがってろといったのに。」
ジャックが怒鳴りちらしていました。
「おい、おまえたちの大将はどいつだ?」
そういうと、仮面をかぶった大柄な男が現れました。
「おまえは、もっているのだろう?紫色の石を。」
低く頭に響くその声の持ち主は、
あの石を渡せといっています。
「それが必要なんだよ。あいつを倒すには。
そうだろう?あいつに借りを返させてもらう。
さぁ、よこすんだ。これ以上死人を出す必要もあるまい。」
あ、この話どこかで聞いたことがある。
どこだったっけ。
「はっはっは、なに馬鹿なことをいっている。
これは選ばれたやつにしか使えないんだ。
おまえみたいなやつに、渡してたまるか。」
そのとき、倒れている人の胸から石が現れ、
仮面の男のもとへと飛んでいきました。
「ふーむ。血に反応するとは。」
そして・・・
わたしの前で、ゆっくりと人が倒れていきます。
ゆっくりと、剣がささります。
何百、何千という矢が飛んできました。
わたしは、目をつむって祈っていました。
タララ・・ラン・タラ・・・ララ♪
どこからともなく、音楽が流れました。
一瞬空気が重くなったかと思うと、
全ての矢が海に落ちていきました。
「王子さん、仮面なんてかぶってひどいことしてますね。
そんなことをしても、王様はお喜びになりませんよ。」
その男の人は、海の上を歩いていました。
まるで、波の上に道があるように。
「王子?」
仮面の男は、振り返り、手をあげました。
「やれ。」
そういうと、海から大男が現れました。
「や、やつめまさかサイクロンと契約しやがったな。」
ジャックがみんなに引くようにいいました。
「このままじゃまずい。あの孤島まで行くんだ。」
そして、大きな波に飲み込まれました。
大きな波は、敵も味方もすべて飲み込みました。
海の中から、大きな竜の頭が姿を現しました。
ダレダ?ワシノネムリヲジャマスルモノワ
竜は、びりびりと電気が流れています。
謎の男は、指でリズムを取りながら、
竜と会話をしているようでした。
ランラン・・ララ・・・ラン♪
すると、竜はぐわわわと体をあらわしました。
ナンジノメイニシタガウ
そういうと、巨人のサイクロンにサンダーボルトをくらわせました。
サイクロンは、体中に電気が流れて、しばらくびりびりしていましたが、
ざっぱーんとその場に倒れ、海の中に消えてしまいました。
バチバチと電気が天から降り注いだかと思うと、
竜の姿はもういなくなってしまいました。
「ち、まあいいさ。これさえ手に入れば・・・」
そういうと仮面の男はドロンと消えてしまいました。
太陽の光がやけにまぶしい。
あたりは、船の藻屑と海に投げ出された人たちでいっぱいです。
サリーが、ゴンザのそばで泣いています。
すると、ゴンザが急に立ち上がりました。
「う・・・ん。オラどうしただ?サリーなんで泣いてる?」
サリーはびっくりして、しりもちをつきました。
そして、すぐにゴンザに抱きつきました。
サリーはえんえん泣いています。
「なんだ?みんな無事のようだな。」
さっきまで倒れていたみんなが、まるでなにもなかったかのように、
起きあがりました。
「どういうことだ?」
手には紫色の石の破片を握りしめていました。
「これのおかげか?」
その時、わたしは、妙な違和感を感じました。
この世界は・・・
きみは、もとの世界に帰るんだ
振り返ると、謎の男が立っています。
少しずつわたしのそばに近づいてきました。
いいですか?あなたはもうすぐザインとあうでしょう
しかし、かれを倒すことはできません
ゆっくりとわたしの前まで歩いてくると、
わたしの手をにぎりこういいました。
あなたがやるべきことは、すべてを思い出しなさい
さぁ、もうひとりのあなたのもとへわたしが誘ってあげましょう
風に包まれたかと思うと、
景色がゆがんで、ガチャと景色か崩れおち、
暗闇に包まれてしまいました。
ここはどこ?
あたりを歩いても、なにもありません。
前を歩いているのか、後ろを歩いているのか、
のぼっているのか、くだっているのか、
歩いているのかさえもわからない世界。
なにもなく、おともなく、
わたしがここにいるのかさえわからない世界。
「わーーーーーー」
叫んでみましたが、声は暗闇に飲み込まれてしまいました。
反射しないということは、どこまでも限りなく、
先が続いているということ。
わたしは今、闇の中にいる。
本当にそのことに気づいたのは、ずいぶんたってからです。
どうしようもなく、
悲しくなりました。
「つばさがんばれ!」
自分にそう言い聞かせて、強く祈りました。
私をここから出して。
だれか、たすけて。
そのとき、わたしの目の前に、わたしが現れました。
え?わたしがいる。
そう思いましたが、それはただの鏡だということがわかりました。
ただ、鏡の向こうから、光が差していました。
一瞬、鏡のなかのわたしが動いた気がしました。
かすかに震えています。
鏡の中からいなくなってしまったら・・・
そう思うと居ても立ってもいられません。
こわがらないで。
鏡のなかのわたしが、わたしの目をじっとみていました。
あなたとふたりでなら・・・
私は、鏡のなかのわたしに優しく微笑みました。
それは、自分自身に向かって元気を出すために。
「あなたとふたりでなら、わたしはわたしになれる。」
彼女は、立ち止まったままです。
彼女は、ウサギをだきしめていました。
ああ、わたしの言葉は通じない。
ことばは音だ。きっと通じるさ
すぐそばに謎の男が立っていました。
「あなたは。」
彼は、わたしが訊ねようとするのを制し、
わたしに同じ動きをするようにいいました。
あのウサギに、きみの祈りを送り込む
きみの音(言葉)ヲ
私は、言われるように指先を動かしました。
お願い、私の言葉を届けて。
しばらくすると、鏡の中のわたしが、
少しずつ私に近づいてきてくれました。
そう、もっと近づいて、
そして、鏡に軽くふれて。
そうすれば、わたしはあなたと一つになれる。
そうすると、彼女の手とわたしの手がふれました。
つながった手は、ゆっくりと重なっていき。
わたしたちはひとつになりました。
「あれ?わたしが鏡の世界にいる。」
そう、わたしたちは確かにひとつになったと思いましたが、
さっきとなにもかわっていません。
「あ、鏡に映ったわたしだ。なんだ、やっぱり夢だったんだ。」
わたしは、安心して、ウサギのまーちゃんを抱きしめました。
「まーちゃん、こわかったよぅ。」
そういうと、まーちゃんは、ぱちりとウインクをしたようにみえました。
え?と思って、目をごしごししてみてみましたが、
まーちゃんは、いつものまーちゃんでした。
さっきまで、怖かったことがまるで嘘のようです。
なんか、気分がいいな。
わたしは、まーちゃんにおやすみのちゅうをして、
ふとんに潜り込みました。
「おやすみなさい。」
出発へ続く