エージェント

「ねー、ゆうこ。なんであの子つれてきたの?」
「え?」
「あいつ、荷物もちにもならないじゃない。」
遠くで、くたくたになりながら、荷物をもってきてる彼。
おーいまってくれよぉーーーー
「はぁ。もう、全然進まないじゃないのー。」
真美は、あきれかえっている。
「ぜーぜーぜー」
「れい、大丈夫?」
「だいじょうぶ・・・じゃない。」
うわーーっといって、ばたんと横になった。
「ねー、休憩しようよ。ほら、まだ先は長いんでしょ?」
そういうと、水筒をとりだして、ごきゅごきゅ飲んでいる。
「あ、それ私の・・・」
ばしっという音とともに、彼の顔が赤く腫れ上がっている。
「いってーーーー。なんだよー、ここまで荷物もってきてやっただろー?」
「まだ、先は長いんだから、今水分全部とっちゃったら、
ほんとに疲れたときになくなっちゃってるでしょー!」
「だって、俺今ほんとにつかれてるんだもんよー。」
その光景をみていた真美は、「はぁ」とため息ばかり。
「もう、しらない。真美、れいなんかおいてさっさと山登っちゃお!」
「ゆうこ、まってよー。」
ぎゃーぎゃー遠くで叫んでる。
なんでこうなっちゃうかなー。もう。

エージェント -大切な宝物-

わたしは、磯野ゆうこ。高校2年生。
わたしがれいの隣に引っ越してきたのが小学生の頃。
彼はやんちゃで、当たり前にように家にあがりこんで、おやつを食べてた。
「おばちゃん、これおいしい。もっとないのー?」
「ほんと、れいくんはおいしそうに食べるわねー。」
「だっておばちゃんが作ったクッキーおいしいんだもん。」
「そう?あ、そういえばケーキもあるけど食べる?」
「えー、たべるたべるー。」
ああ、れいとの記憶って、なんか食べ物のイメージしかないなぁ。
「どした?」
わっ
「べ、べつになにもないから、そんなに顔を近づけないの。」
「なに顔赤くしてんだよ。あ、ゆうこもパンたべる?
ここのパン、テレビにでるくらいうまいんだぜ。」
はぁ。
なんか、ほんとれいってため息がでちゃう。
「れいって、ほんとノー天気だよね。」

でも、れいって結構人に優しいとこもあるんだよ。
「あれ?ゆっきーどしたの?なんかおちこんじゃってない?」
机にうつぶせになってた彼女は、少し泣いていたみたい。
「浜崎さん、だいじょうぶ?」
「ううん、なんでもないの。ありがとう。」
「ほら。」
そういって、れいはポケットからチョコレートを彼女にあげた。
「これ食べたら元気でるよ。」
彼女は、ちょっと恥ずかしそうにチョコを食べた。
「ありがと。」
「おー、またなんかあったら俺にいいな。
お菓子いっぱいもってるからさ。」
「うん。」
「あれ?ゆうこなに俺の顔みてるんだー?」
「べ、べつに、れいの顔なんかみてないわよー。」
「なんだよ。おまえもチョコたべたかったのか。
ほしかったらほしいってちゃんとゆわなきゃわからないぞ。」
そういって、わたしにまでチョコをくれた。
「おいしい。」
「だろ?俺が買っただけはあるでしょ。」
「だれが買ってもおいしいんじゃないの?」
そういうときは、れいは両耳を手でふさいで聞かなかったふりをする。
「れいくん、磯野さん、ありがとう。ちょっと元気がでたよ。」

放課後れいと二人で家に帰る。
「なー、ゆうこ。今日さ、晩ご飯なにかなー?」
「し、知らないわよ。そんなこと。」
「そんなつれないこというなよ。俺さー、実は・・・」
そういうと、れいは私の顔をみつめた。
「はぁ」とため息をついて、またとぼとぼ歩きだす。
「なによー。人の顔みてため息つかないで。」
ぼそっとれいがささやいた。
「え?なに?」
「だからさー、俺、明日土曜日なのに、補講にきなさいだってよ!
どうすんだよー。せっかくの土曜日が。学校 だって。」
がっくりと落ち込んでるれい。
「しょうがないなぁ。私もついていってあげるから。」
・・・
「あ、そうだ。明日は『れおん』にパフェでも食べにいかない?」
そういうと、れいの顔がパッと明るくなった。
「えー、まじまじ?明日?おっけー。あそこのパフェでかいよなー。
あー、なんか涎がでてくる。」
じゅるじゅると、よだれたらしてる。
ほんと、れいってば甘いもの好きね。

むにゃむにゃ・・・
「れい、おきてる?歩きながら寝たらあぶない。あ 」
ゴーンって大きな音がして、れいの頭の上に星がいっぱい回ってる。
「痛ッ」
れいは、ふらふらしながら壁にもたれかかった。
「ほら、だからいったでしょ?もう。」
「あー、昼間っから星がみれるなんて、俺って幸せ。」
あー、もう、逝っちゃってる。
「ほら、学校まであともう少しなんだから。」
「わかってるよ。」
ふわーって、大きなあくびをしてる。
歩きながら寝れるって、どういう神経してるのかしら。

あ、山田先生が担当してるんだー。
そういえば、れいって、英語苦手だったなぁ。
もう、れいったら、涎垂らしてる。
頭の中は、パフェでいっぱいみたい・・・
あれ?
今階段のところにいたのって、浜崎さん?
わたしは、れいを観察するのをやめて、人影の後を追った。
階段を上る音が消えたあと、バタンと扉の閉まる音がした。
屋上?
私は、そっと階段を上った。

「浜崎さん?」
彼女は、屋上からグランドの方を眺めていた。
私の声には全く気がつかないみたい。
「どうしたの?」
わたしは、彼女のそばまで近づいた。
「あ、磯野さん。」
彼女は、少し悲しそうな顔をしていた。
「どうしたの?土曜日に学校にきて。」
「うん、わたしね、もうすぐこの街をでちゃうんだ。
お父さんとお母さんが離婚しちゃうんだって。
今、家お父さんいないのね。だから、お母さん、
私と二人で新しい生活始めるって・・・」
彼女の瞳には涙が浮かんできてた。
こんなとき、なんていってあげればいいんだろう。

「どしたの?」
ふぁ~っとあくびをしながられいがやってきた。
浜崎さんは涙をぬぐって、早足に階段を下りていった。
「ん?」と、れいは不思議そうな顔をした。
わたしはなんて説明していいかわからなかった。
「やっと補習も終わったし、パフェくいにいこーぜ。」
「ごめん、今日はパス。」
「えーーーーー」
がっくりしているれいを後目に、私はその場を立ち去った。
浜崎さん、大丈夫かな。

れいくん、ごめんね。
わたしは星空を見上げながら、これから先のことを考えた。
明るく輝いてる星が、急にぼやけてきた。
涙でよくみえない。
この街を離れるのはなんでもないのに。
「ゆきー、電話よ。」
一階からお母さんが呼んでる。
「はーい。」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を拭いて、一階へ下りていった。

「もしもし?ゆっきー?どうしたの?」
「れいくん?」
「ゆうこのやつ心配してたぞー。」
磯野さん。。。
「なんか悩んでることがあったら、相談にのるからさ。」
「うん、ありがとう。あのね、わたし・・・」
「なあに?」
「ううん、なんでもない。」
「そっか、元気だせよー。」
うん。

わたしの家は、お母さんしかいない。
お父さんとお母さんは中が悪くて、結局別れることになりました。
お父さんはどこにいるのかというと、今は・・・刑務所の中です。
わたしはあまりよく知らないからわからないけど。
もともとは、どこかの社長だったらしいんだけど、
今は、組長をやってるって・・・
小さい頃から、お母さんがわたしの前でそういう話をしないようにしてたから。
でも、お父さんは、わたしにはすごく優しくて。
そんなお父さんを裏切るようで嫌なんだけど。
わたしと母は、れいくんに教えてもらった事務所に足を運びました。

「こんにちわ。」
にこにこしたおじさんが、受付をしてくれました。
「なんでもやさん、ってなんでもやってくださるのかしら?」
お母さんが、おじさんに話を切りだした。
「お願いしたいことがありますの。」
おじさんの顔が一瞬真剣な表情になった(と思った)けど、
すぐに穏和になって、「まぁ、どうぞ。」といって、奥へ通してくれました。
中には、もう一人中年の男性が座っていて、お母さんはその人とお話をしていました。
わたしは、大人の話はあまり聞きたくなかったので、
部屋の入り口のところのソファーに座って雑誌を読んでいました。

「そうですか。ということは、彼の隠し財産をみつけだして欲しい、と。」
「そうです。」
「どのくらいの財産があるか、わかりますか?」
「数十億はくだらない、と聞いたことがあります。」
「数十億!それは、たいそうな金額ですね。
では、回収の暁には、10%のマージンをお支払い頂くことになっておりますが。」
「10%??そんなに・・・」
「もちろん、10%というのはアバウトです。
それ相応のものが手に入れば、こちらは満足ですので。」
少し不機嫌そうな顔をしたが、最後は納得したようすだった。
「これで、契約が成立ですね。」
軽く握手を交わした。
「ゆきこ、帰るわよ。」
「はい。」
バタンと扉が閉まると、急に辺りは静けさに包まれた。

「エージェント(代理人)レイ、プリンシパル(依頼人)だ。」
暗闇がまだ腰を下ろしている。
一息つくと、冷たい風が辺りを吹き抜ける。
「うっ」と声を漏らす。
時間は、朝の4時。白い吐息がもれる。
まだ、太陽はでてきていない。
「おはよう。今日も走ってたのかい?」
「はい、気持ちいいですよ。」
「どうぞ」と秘書がコーヒーをだしてくれた。
「それにしても、今回はどんな依頼でした?」
秘書は一礼をして、部屋からでていった。
「今回は、君が探していた『未来のかけら』の持ち主だ。」
「え?」俺は飲みかけていたコーヒーをこぼしてしまった。
「しかも、やっかいなことに、宝は獄中の人物がもっている。」
「まさか、浜崎ゆきこの父親っていうのは・・・」
「そう、あの山城大司郎だ。」

今回の任務はレイ、きみに牢獄に潜入してもらう
「れい?」
「あ、なあに?」
「どうしたの、さっきから。ボーっとしちゃって。」
「今日のおやつは何食べようかなーって思ってさ。」
にぃーって笑って見せた。
「なんだ、そんなことか。」
ゆうこは、軽く微笑んでた。
「いつになく真剣な顔してたからさ、心配しちゃったじゃん。」
「俺が、そんな悩みなんかあると思う?」
ぜんぜん、とゆうこは首を大きく横に振ってみせる。
「じゃ、あとでいつもの店にいく?この前・・・」
ゆうこは、ちょっと申し訳なさそうな顔をした。
「そうだね。パフェたべよう。パフェパフェ~♪」
それを聞いて、ゆうこはちょっと安心した様子だった。
それにしても・・・未来のかけらを持ってる人物が、こんなに近くにいたとは。
父さん、やっとあなたの手がかりがつかめそうです。

おれ、ちょっとアメリカにいってくる
ん?英語の勉強だよ
そうそう、大丈夫だって
飛行機事故なんてあわないから
「ゆうこ、なにぼーっとしてんの?」
え?
「あいつのこと考えてたんでしょ。」
あいつ・・・
「あんなやつのどこがいいの?」
れいがいなくなって、もう2週間か。
今頃なにしてるんだろう。
そういえば、こんなに長くれいの顔をみないなんて初めてだな。
真美は「もう」とあきれて部屋を出ていった。
無事に帰ってきてね。

「ハロー、シンディ」
遠くから手を振ると、こちらに気づいた。
「レイ、久しぶり。はいこれ。」
そういうと、どっしりと厚みのある資料を手渡された。
「今日中にこれ読んで頭にいれておいてね。
時間は早ければ早いほうがいいから。」
「これぜんぶ?」と、両手をおおげさに広げて見せた。
「そうよ、早くしないと、謎のままおわっちゃうでしょ?」

「さっそく、会社に案内するわ。」
山城グループの本社、か。
「あなたは、奥さんからの手紙があるから、
それを渡せばすんなり働かせてくれると思うわ。
私が調べた限り、あそこに宝がある気配はないわね。」
「でも、きっと何か手がかりがあるはずだ。」
空港からでると、タクシーをひろった。
こちらは夜か。暗闇のなか、どこを走っているかわからない。
目的地はすでに伝えてある。
「つきましたよ。」
バタンとドアが開く。
運転手が振り返り、拳銃を突きつけた。
「悪いな、おまえを殺すようにゆわれてるんだ。」
パンと大きな音がした。
「ウ」と小さい声がもれた。
煙のにおいがする。
赤い血が噴き出した。

「たく、危ないわねー。大丈夫?」
シンディは、ハンカチで顔にかかった血をふき取った。
「もう、服もよごれちゃったでしょ?やるなら外でやってよねー。」
「あら、レイくんも同じ意見かしら?」
「俺は、べつに・・・」
「まぁ、いいじゃない。これからは私が運転手になってあげるわ。」
「これ、どうするのよ。800ドルもしたのよ。」
「どうせ、今日だけでしょ?着るの。
ところで、レイくんって、結構かわいいわね。」
ドンと、シンディが運転手の座っているイスを蹴った。
「早く、これのけてよ。汚いんだから。」
ねー、彼女だれ?
「エリザベス」
「なに?」
「レイが、あんたにキスしたいんだって。」
「そう?」
ふふふといって、抱きつくと、強引にキスされた。
「おねーさんが、いつでも相手してあげるわ。」

「あーあ、さっそく命ねらわれるなんて。相手も情報が早いわねー。」
「ま、予定通りじゃない。」
「やはり、奥さんの動きはすべて把握しているのか。」
「こうなったら、もう、レイくんも帰るしかないわね。」
「そんな・・・」
「こんな資料なんか、ほら。」
そういうと、シンディは、資料に火をつけた。
「これで、今回の件は終わり。」
業炎につつまれて、炎は紅く燃え上がる。
グッバイ(ようこそ)、レイ
作戦開始。

グッバイ、レイ・・・・ガガガ・・・
「・・・」
カチカチカチ・・・
「これですべてです。」
鉄の棒が、テーブルの上に突き刺さる。
「これですべてだと?やつらにもう気づかれてるではないか?」
グググと変な方向に鉄が曲がる。
「ボス、しかし・・・」
ギラリと睨む鋭い眼光。
「や、やつらはまだ、我々のことをわかっていません。」
カンカンカン・・・
「あいつは、あれ(招待状)をもっているんだ。
会社に潜入するのは時間の問題だ。
しかも、やつらはプロだ。今回のことでよくわかった。
やつらに先に奪われてしまうと、もう手に入らなくなるぞ。」
折れ曲がった鉄の棒を両手でさらにくねらせた。
「いいか、やつらより先に手に入れるんだ。
あの中に隠された暗号を解けば、世界はわれわれのものだ。」

「レイ、そういえば今回のターゲットはあれを持ってるらしいね。」
「うん。」
「あれって、そんなに価値のあるものなの?」
「俺には、ね。」
未来のかけら、それは父さんが作ったタイムカプセル。
現在、存在してはならないあらゆる危険なデータ『ごみ』が、
インプットされている、マイクロチップ。
この中に、父さんの手がかりがはいっているはずなんだ。
10年前、父さんは『未来のかけら』を開発したと同時に、
突如行方不明になったんだ。
きっと、父さんの記憶も消したかったんだ。
そのチップを開発した会社に出資していたのが、山城大司郎。
しかし、その後彼は日本からさり、消息が不明なままだった。
でも・・・
「価値を知るものに売れば、かなりの高値をつけるってこと。」
シンディは少し不安そうにいった。
「みんなもあれを狙っているのかな?」

「何の用だ?」
どっしりとした体格の大男が、背後からやってきた。
「なによー、わたしたちは用があってきてんのよ。
一番偉い人呼んでっていったでしょ。
あなた、こんな人をよんだの?」
そういうと、シンディは受付嬢をにらんだ。
「あんたみたい・・・(もごもご)」
シンディちょっとだまって、俺が話すから。
「あの、これ。」
俺は、さっそく手紙をみせた。
一瞬ピクッとしたが、すぐに電話で誰かに連絡していた。
「おまえたち、俺についてこい。」

「なんなのかしらねー。急に態度かえちゃって。」
俺たちは、応接間に案内された。
シンディは、ふかふかのソファーに寝そべって、タバコをすっている。
スーと白い線が大男の顔に吹きかかる。
「先ほどは失礼しました。しばらくおまちください。」
エリザベスは、パソコンを開いて、なにやらカチカチやってる。
シンディは、「灰皿」とか、「飲み物」とかゆって、
大の男を顎で使ってる。
なんか、さっきから彼の額のあたりがぴくぴくしてるんだけどなー。

「こんにちわ。」
入ってきたのは小柄な女性だった。
「あなたがれいくん?」
俺はこくんと頷いた。
彼女は俺の目からし線を外そうとしなかった。
「いい目をしてるわね。」
にっこり微笑んでくれた。
「トム、例のものを。」
そういうと、大男は、シンディから逃げるように立ち去った。
その間に、彼女はシンディとエリザベスの方をちらっとみた。
エリザベスは、相変わらずパソコンをカチカチやってる。
シンディは・・・
「あっ」
一瞬にして、彼女はその場から消えた。
俺が彼女のそばに駆け寄ってみたが、何も見当たらなかった。
「エリザベス!?」
振り向いた時には、彼女も姿を消していた。
「どうしたの?そんなに慌てちゃって。」

「二人をどうしたんですか?」
彼女は微笑んでいる。
「さあ、どうしたんでしょうね?」
コンコンとノックの音と同時に、トムが部屋に入ってきた。
「さあ、これを読んで。」
そういうと、数枚の資料を手渡された。
「これは・・・」
そこには、俺とシンディとエリザベスのことが詳細に記されていた。
「トム」と言い放つと、彼はその場を後にした。
「ようやく二人きりになれたわね。」
いやらしい笑みを浮かべている。
「あなた、前社長の財産を狙っているのは本当なのかしら?」
「前社長!?」
「そうよ。」彼女は俺の顔をやさしく触れる。
「私が社長の菊田です。」

「私もね、彼の財産を探しているの。でもね、なかなか見つからないわ。
ここに記されているように、あなたが本物のプロなら、
わたしもあなたを雇いたいんだけど。」
俺は、一瞬ですべての資料に目を通した。
「あなたは何が望みですか?」
「わたしの望みは、彼が保有していたといわれる、人魚のしずく、よ。」
「人魚のしずく?」
「あら、聞いたことがないの?
人魚は沖に出ることはなく、人に会うことはめったにない。
その人魚が、人のために涙したとき、その涙は一粒のしずくとなるの。」

エリザベス、彼女は俺たちの仲間なのか、それとも・・・
カンカン・・・
「作戦はどうなっているんだ?」
ガンガンガン・・・
「やつは、うまくやっているんだろう?」
ドカン
「は、はい。ボス。エリザ、いえ、キャロルはうまくやっています。」
ギロリと目を見開いた。
「コードネームで呼べとあれほどゆっているだろう!!」
ボグンと鈍い音がした。
「はぁはぁはぁ・・・どいつもこいつも・・・」
「ボス、将軍からです。」
「ビクン」として、スクリーンに敬礼をした。
「マイケルくん、まだ在り処を見つけていないのか?」
「は、はい。申し訳ありません。今一時・・・」
「キャロル中佐はよくやってくれてるよ。」
そういうと、一枚の書類をちらつかせた。
「ここには、レイというエージェントのことと、
会社の見取り図が描かれている。きみより有能のようだな。」
汗が顔をじっとりと這う。
「彼女をきみにあずけたんだ、ちゃんと使いこなしてくれたまえ。」
「ははー。」
ビシュン・・・
「くそー、あの女。俺に報告せずに直接将軍に資料を送りやがって。」
ガシャンとガラスの割れる音がした。
血が噴出したこぶしを握り締める。
「おまえたち、失敗は死だと思え!!」

「こちらの条件をのんでいただけるのでしょう?」
俺は、直感を信じた。
「はい、でも、そこまでいうのなら、あなたは少しは彼の遺産の在処についても、
ご存じなんですか?」
一瞬彼女の瞳の奥が、暗く輝いた。
「そうね。商談も成立したことだし、お話してあげるわ。」
そういうと、彼女は、ゆっくりと話し始めた。
「この会社のセキュリティーをご存じでしょう?」
俺はこくんと頷いた。
「この会社の情報は、インプットもアウトプットも制御されているの。
それは、完全に極秘情報をシャットアウトするため。
そのためには、侵入者如何にかかわらず、チェックする必要があるわ。」
彼女の足がゆっくり交差する。
「ここは、一階からセキュリティーがすべて違うの。
そして、ここ、つまり最上階にこれるものはいないはず。」
そして、俺の顔を見た。
「あの女性からの推薦状がなければね。」

「前社長にね、頼まれてることがあるのよ。
浜崎という女性の頼みは必ず聞くように、と。」
彼女は、ちらっと手紙に目をやった。
「彼女にもっと贅沢をさせてあげたかったらしいわ。
でもね、なんといってもあの『山城』ですもの。
彼がそんな弱点をみせれば、そこへ金の亡者が集まるでしょう?
だから、彼は自分のこと忘れるようにゆったの。
幾ばくかの娘の養育費を除いて。」
ふっと浜崎のことを思いだした。
彼女は、ずっと寂しかったんだろうな。
「ここからが本題なんだけど・・・。ここには捜し物はないの。」
「わかっています。」
「?!」
「今、山城さんは、牢獄におられるようですね。
この会社は、民間の刑務所を経営していると聞きました。
俺をそこへ入れてほしいんです。」
「彼に直接探りをいれるというの?それは無理よ。
彼はあらゆることに頭が回るの。」
俺は首を横に振った。
「こんなにセキュリティーが高いのに、なぜここに財産を隠さないのでしょう?
ここでは、盗みに対してさほど死を意識しない。でも・・・」
「でも?」
「もし、彼が刑務所内に財産をかくしているのなら、
潜入するにも、脱出するにも、確実に命をかけなければならない。」
「そんな馬鹿な。じゃあ、あれは刑務所にあるというの?」
「それを調べたいんです。」

あの刑務所には近づくな。悪魔が棲んでいる・・・

疲れちゃったよー
 これを食べなさい
なにこれ?
 お父さん特製チョコレート
ふーん
(もぐもぐもぐ)
うん、おいしい
 そうだろう?なんたって特製だからな
・・・
「レイ?」
気がつくと、空港のロビーにいた。
「はい、あなたの分」
そういうと、シンディはチョコレートをくれた。
「それにしても、レイって甘いもの好きだわねー。」
「うん。」
チョコレート、父さんを思い出せるんだ。

「れい、いいんだな?」
所長が最後の確認をした。
「はい、俺、行きます。」
「あそこには悪魔が棲んでいるんだぞ。」
「はい、だからこそ、あそこが一番怪しいんです。」
生きて還れない、と口にしそうになった所長は慌ててせきこんだ。
「そんなにいうなら、あとは任せた。」
「ありがとうございます。」
俺は、今まで育ててくれたことを感謝した。
「そうそう、あの子にはもう会ったのかね?」
俺は首を横に振った。
「さよならをいうのは得意じゃないんで。」
「そうか。」
そういうと、所長は小さくうなずいた。
「いってこい。」
「それじゃ、いってきます。」

父さん、父さんは俺をどうしたかったの。
父さん、俺を認めて。
父さん・・・

エリザベスとシンディも牢獄へと潜入した。
塀の中は、意外と自由な生活ができるようで、
お金次第で性別に関係なく休憩できるルームがある。
俺たちはそこで連絡をとることにした。
「レイ、私ってホントに仕事がはやいわー。」
そういうとシンディは一枚のメモ用紙をテーブルの上においた。
「これ、だれだかわかる?元副社長、ドロシーの調査結果よ。」
「ふーん、わたしも社長の情報を仕入れてきたわよ。」
そういうと、エリザベスは足を組み直して俺の方をみる。
「ま、私にかかれば男なんていちころよ。」
ふふふと笑みを浮かべてみせる。
「やっぱり、ドロシーは山城氏の身の回りの世話役として、
一緒にここに潜入したみたいだね。」
「彼女も行方不明として扱われてたけどね。
一番彼が信頼をおいていた女性のうちの一人らしいわ。」
「でも、せっかくドロシーの情報を仕入れてきても意味がなかったわ。」
そういうと、シンディは少し残念そうな顔をした。
「え、なんで?」
俺はメモ用紙をに目を通した。
「彼女、口が利けないのよ。」

「彼女は、自分から情報が漏れないように、
自ら喉にナイフをあてたらしいわ。」
「山城氏の情報は?」
そういうと、エリザベスは少し眉をひそめた。
「彼は、目が見えないらしいわ。ナイフで目をくりぬいたの。」
全身の血が燃えるように熱くなった。
なぜだかわからない。でも、とても不安な気持ちになった。
俺たちは、近づいてはいけないんじゃないのか。
「レイ?大丈夫?」
「あ、うん。」
「あなたは、もう彼にあっているのよ。」

俺がここに潜入してすぐのこと、
一人の老人に出会った。
彼は、とても老いていて杖がなければ歩けないほど、
ふらふらしていた。
俺は危うくぶつかりそうになった。
「すみません。」
そうすると、彼はごほごほと咳をして、また歩き始めた。
彼はどこへいくのだろう?
そう思うのと同時に俺は仕事のことを思い出していた。
まず、やらなければならないことがある。
全く気がつかなかった。
山城氏といえば、まだ40代後半で、がっちりとした体格、
彼の写真を一度だけ見る機会があったが、
(それでも、20代初期の彼の唯一の写真であるが)
かなりの力強さを感じることができた。
どうすれば、あそこまで若さを失うことがあるのだろう。
まるで、悪魔に生を吸い取られたかのように。。。

「最近、彼をみないけどどこへいったのかしら?」
「そういえば、レイが彼をみた日以来、
ほかの囚人たちも彼を見かけていないらしいわ。」
俺は、一瞬不吉なビジョンが頭に流れでた。
それは、とてもはっきりとした映像だった。
「彼はもう死んだよ。」
「え?」
「え?どうしたの?」
「レイ、今なんていったの?」
はっと気がついた。
「彼はもう死んでるんだ。」
心臓が高鳴っている。
目の前がぐるぐると周り始めた。
「レイ?レイ?」
・・・俺の意識はとんでしまった。

きみは、れいくんだね。
きみのお父さんに頼まれていたものを渡そう。
彼は、きみのことをすごく心配してね。
できれば、きみが二十歳になるまで・・・
きみには、ちょっとした欠陥があってね。
でも、きみが本当にここにくるとは思っていなかったよ。
ここにはきてほしくなかった。
そうすれば、きみは普通に生活をして、普通に生きることができたのに。
さぁ、れい。
きみが目を覚ましたとき、君の手元には二つのものがある。
まず、小さい方からみるんだ。
いいかい?これは必ず守るんだよ。
必ず小さなほうからみるんだ。
そして、これはだれにも見せてはならない。
みたものがどうなるかは、私の口からはいえない。
きみの名前の由来も、すべてわかるはずだ。
きみのお父さんは、もうこの世にいない。
いや、いる。
わたしは、もう眠るよ。
私の死は、きみがつれてきた悪魔に命を狩られた。
おかげで楽になれたよ。

目が覚めると、俺は右手に小さな手帳、
左手には、少し大きめなコンピューターを握りしめていた。
 必ず小さい方からみるんだ
俺は、その言葉を素直に受け入れた。
ぺらぺらとページをめくる。
 セル ヒトゲノム 悪魔 細胞 遺伝
  零 いのち 花 世界 永久
ガクンと首が傾いた。
それと同時に意識が手帳の中へと吸い込まれていった。

セル、それは同じ未来を持つもの。
ヒトゲノム、それは、我と彼を知る。
悪魔、それは、隠し通せぬ獣『ヒト』の性『SAGA』。
細胞、それは同じ過去を持つもの。
遺伝、それは、我と彼とをつなぐもの。
零、それは、無と存在との狭間。
いのち、それは熱き冷たき記憶。
花、それはひとときの憂い。
世界、それは枷のある躰。
永久、そして我は彼と棲む。

私たちは、永遠を手に入れることに成功した。
私たちは、広い世界を手に入れた。
私たちは、もう考えることをやめた。
私たちは、有限を無限なものへと変えてしまった。
私たちは、後悔せねばならない。
私たちは、もはや生きているのか死んでいるのかさえ気づかない。
私たちは、存在しないものさえ生み出すことができた。
私たちは、いったいなにをしたのだろう。
私たちは、いったいなにを求めていたのだろう。
私たちの研究の結果は、ただ私たちに永遠の死を与えるためのものだった。
もはや、この先を生きることはできない。
これにふれる者、その目を失うであろう。
これにふれる者、その声を失うであろう。
これにふれる者、その音を失うであろう。
これにふれる者、その力を失うであろう。
これにふれる者、その生を失うであろう。
これにふれる者、その死を失うであろう。
私たちが行った、セル計画、あれを速やかに中止せねばならない。
さもなければ、ごみ『人間』が増え続けてしまう。
・・・
・・・
・・・
れい、おまえがいつか自分をみつける日がくると思っていた。
これは、おまえだけに残した暗号だ。
ここに残された言葉は、すべて私自身に刻んだメッセージ。
この言葉で、閉ざされたすべての記憶が甦る。
れい、おまえには、偽りの記憶をインプットしていた。
れい、おまえは、こんなことを考えたことがあるか?
『自分はどこからきて、どこへいくのだろう?』
『自分は、なんのために生まれてきたのだろう?』
れい、おまえには、その答えがはっきりとある。
れい、それは、おまえが私自身なのだ。
おまえは、わたしの記憶から生まれて、
私たちの記憶を封じるために生きているのだ。
おまえの死は、すべてのごみを消去するため。
おまえは、わたしたちの最後の頼み。
誰にも情報を漏らすわけにはいかない。
れい、おまえは、零、おまえこそ、生と死の狭間に棲む者。
私が作り出した、クローンだ。
おまえがみていた記憶は、すべて私の記憶。
おまえのいのちは、二十歳で終わるのだ。
唯一欠陥が生じてしまった。
おまえが、ここにきてしまうということだ。
できれば、普通に生活をしてほしかった。
おまえは、わたしなのだ。
ヒトはいつか消えてしまう。
ヒトは幻を見続けている。
今いるわたしは、本当に私なのか?
おまえの隣にいるヒトは、本当にヒトなのか?
これは、誰かの記憶に入り込んでいる魂がみている幻影か?
私たちは、神様が作り出した、ただの人形なのか?
次の瞬間、私たちはもう死んでいるのではないか?
なにをもって、生きているというのだろうか?
考えることに、なんの意味があるのだろうか?
すべては、たった一つ。
どこまでいっても、わたしたちは、彼にはなれない。
彼もまた私たちにはなれない。
それでも、一つなのだ。

・・・
パッと暗闇に光がともり、また消える。
光と闇。
藍と黄。
その境目に生がある。
どこが地獄でどこが天国?
身体が機械でできてるようだ。
すごく重く感じる。
人ってなんだろう?
人って。。。
俺は誰なんだ?
俺は・・・

燃えるような土色の突風が、瞬きほどの光を揺らしている。

いる いらない けす いる いる いらない いる いらない いる いらない いる いらない いる いらない いらない いる いらない いる いらない いる いらない いる いらない れい いる いらない いる いらない いる いらない いらない いる いらない いる いらない いらない きえる きえない けす きえない いらない きえる けす かえってきてね  きえる きえる きえない いる  いる いらない いらない いる いる いらない いらない いる いる れい

蒼い波が押し寄せてきた。
その後に、とても心地よいぬくもりに振れた。
俺は、俺だ。
俺は、俺なんだ。
あの声は、、、ゆうこ。
俺はこんなところに長居するきはない。
あいつとの約束を守らないといけないんだ。

合格だ

うっすらと光りが射す。
手には壊れた水晶玉を握りしめていた。
「ここは、どこだ?」
巻き戻す 早送り ストップ
「うーん、まだ何か頭の中がぐるぐると回ってる。
あれ、そういえば、シンディ?エリザベス?」
俺がいるのは、砂漠の真ん中だった。
俺は歩いた。
歩いても歩いても、、、先がみえない。
俺はいったいどこにいるんだ?これも夢の中か?
「おーい。」
・・・
巻き戻す 早送り ストップ
「うぅ、頭が割れるように痛い。」
はぁはぁはぁ。
頭の芯を殴られてるような気分だ。
めまいがする。
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい。」

一人でさまよい歩く。
砂漠の熱に耐えられない。
遠くにみえるオアシス。
あれはきっと蜃気楼。
「もう、歩けない。」
バタリとその場に倒れ込む。
一人で進む勇気がない。
どこを目指して進めばいい?
ないとわかっていても、オアシスを目指すべきなのか。
微かな希望にかけるしかない。
動かなければ、ゼロだ。

「はぁはぁはぁ・・・」
のどがからからだ。
何日くらい歩き続けたんだろう?
太陽がぜんぜん沈まない。
ここは、現実世界なのか?
倒れても、倒れても起きあがる。
体から、もう水分がなくなっている。
しかし、気がつくと俺は歩き続けてた。
繰り返される日々。
ポケットに手を突っ込むと、一枚のチョコレートがでてきた。
「もう、溶けてぐちゃぐちゃだな。」
ぺろりとなめた。
がらがらの喉には通らない。
「うっ」
目の前がくらくらする。
ごほっごほっ・・
水が欲しい。。。
・・・

 「ねー、ゆうこ。なんであの子つれてきたの?」
 「え?」
 「あいつ、荷物もちにもならないじゃない。」
  ・・・
 「はぁ。もう、全然進まないじゃないのー。」
 「・・・」
 「れい、大丈夫?」
 「・・・」
 「・・・?」
 「あ、それ私の・・・」
 「・・・?」
 「まだ、先は長いんだから、今水分全部とっちゃったら、
 ほんとに疲れたときになくなっちゃってるでしょー!」
 「・・・」
 「もう、しらない。真美、れいなんかおいてさっさと山登っちゃお!」
 「・・・」

あのときに戻りたい。

キュルキュルキュル・・・
「れい、準備できた?」
ゆうこ?
「なにぼーっとしてるの?早くいかないと途中で暗くなっちゃうよ!」
俺の腕をゆうこが触れている?
「早くいかないと、今日中にたどり着けないよ!」
・・・
「ほら、いいから。早くいくわよ。」
俺は、ゆうこについていった。
「はぁはぁはぁ。」
これは・・・夢?
「なに疲れてるの?まだ登り始めたばかりでしょ?」
「先、いくよ。」
「うん、わかった。真美は先にいってて、わたしれいと一緒にいくから。」
・・・
なんで、俺に優しくするんだ?
「わたしが優しい子だからでしょ?」
そういうと、ゆうこはちょっと照れて、
「もう、そんなことはいいから。」
そういって、俺の手を引っ張ってぐいぐい歩き続けた。
この先になにがあるんだろう?

サキ ハ オナジ ダ
一瞬にして、今みていた景色が消えてなくなった。
ナニ ガ タダシイ カ ワカル カ?
イマ ミテイタ コト ガ ジジつ だと なぜ 言える?
今まで おまえが みてきたものは、俺が作り出してやったんだ。
おまえが望むように。
ナン デ オレ ニ?
そうだな、それはおまえが選ばれたものだからだ。
エラバレタ モノ?
おまえの中の、その強い意志がオレに反応したんだ。
イシ?
「カランカラン・・・」
コレは?
それは、おまえのイシだ。何よりも強いイシ。
このイシが、おまえの探し求めていた『ミライノカケラ』だ。

おまえは、このイシを持っている限り、死ぬことはできない。
つまり、あの地獄『死』の門をくぐり抜けて生きていられるのは、
このイシをもっているモノだけなのだ。
おまえは死なないと決めた訳じゃない、
ただ、死ねなかったのだ。
しばらくおまえの記憶に触れていたが、
おまえは、嘘の記憶を刷り込まれているようだな。
『ミライノカケラ』は、おまえの父親が作ったモノではない。
コレは、本来は、未来にしか存在しないもの。
故に、彼らはこれを『ミライノカケラ』と名付けたのだろう。
これには、様々な情報が読みとれるが、
本来は、最後の装置を動かすための一部にすぎない。
あと数年、数十年先に、地球の引力が強くなる。
いや、地球だけじゃない。火星も、木星も、そして・・・
そして?
月の引力もだ。
それが何を意味しているかわかるか?
月と地球とのバランスが崩れるんだ。
つまり、現在の万有引力のバランスがくずれ、お互いを引き寄せ合い、
大爆発を起こす。
それを私たちが阻止するために、開発したのがこのイシなのだ。
そう、わたしは未来から、精神だけをとばしてここまできた。

あれは、ある星がきれいな夜だった。
空を見上げていたわたしは、ふと明るい光に包まれたのだ。
空を見過ぎて、目が少し疲れたのかと思った。
軽く深呼吸をして、再び空を見上げたのだ。
しかし、空はとても明るかった。
といよりも、夜空が真っ白になっていたんだ。
しばらくすると、小さな隕石が地球に落ちたことがわかった。
もちろん、それは地球だけではなく、銀河系すべての星々にだが。
それは、じわりじわりと現れ始めた。
月がだんだんと大きくなっていたのだ。
つまり、地球と月が引き合っていた。
わたしたちは、すぐに引力の釣り合いを戻す負の効果を与えるイシを作る必要があった。
隕石の情報を読みとり、それとはまったく逆の効果を与えるようにインプットし直し、
やっと、そこから回避できるはずだった。
そのとき、やつがでてきたのだ。
隕石は、みるモノによってカタチが異なるようだった。
目の前に見えるモノ『隕石』は、人間の持っている欲望そのものへと変わっていった。

少しずつ、人は隕石によって心を奪われていった。
このままでは、月との衝突を回避できなくなる。
そこで、わたしはそのイシと一緒に過去に戻ることにした。
あの日がきたときに、対処できるように・・・
おまえは、同じ夢を何度もみてるようだな。
あれは、ただの夢じゃない。
きみの過去そのものなんだ。
あの夢の続きをみたいのか?
それは、現実を思い出すということなんだ。
それでもいいんだな?
・・・
いいだろう。
3つ数えると、おまえはあの時の記憶を思い出す。
さぁ
1、2、3・・・

「お父さん、今日はどこにいくの?」
「今日はね、おまえに見せておきたい場所があるんだ。」
「どこ?」
「いけばわかる。」
・・・
「はぁはぁはぁ。疲れたよ。ちょっと休もうよ。」
「今からそんなんでどうする。先はまだまだ長いんだ。」
「のど乾いちゃったよ。」
「ちょっとだけだぞ。」
「ごくごく・・・」
・・・
「あと、どのくらい?」
「もうすぐだ。」
「僕、疲れちゃったよ。」
「これを食べなさい。」
「なにこれ?」
「お父さん特製チョコレートだ。」
「おいしい!」
「そうだろう?なんたって特製だからな。」
・・・
「そろそろだ。」
「あれ?」
「そう、あそこまでいけば・・・」
ガサガサッ
「田村暁だな?」
木の陰から黒い服をきた男たちが現れた。
「あれを出してもらおう。」
「れい、おまえは先にいけ。」
「え?え?」
「ガキを助けてほしけりゃ、早くだすんだな。」
「マイケル、おまえにあれを渡すわけにはいかない。」
「おい」、と合図をすると、黒い服の男たちが俺に近づいてきた。
ゆっくりとシーンが進んでいく。
男たちは、俺を捕まえようとした。
父さんは、マイケルの足を転がっていた棒で殴った。
すぐさま、父さんはマイケルの首にナイフをあてた。
「た、たすけてくれ。」
マイケルは、命乞いをした。
「れい、急げ。」
「うん。」
俺は、急いで山道を駆け上った。
バン・・・
遠くで銃声が鳴り響いた。
俺は、怖くてずっと隠れていた。
父さんは、こなかった。

ガタン
振り返ると、車椅子にのっている女性がいた。
「だれ?」
彼女は微動だにしなかった。
車椅子のそばに、アルバムが落ちていた。
俺は、近づいた。
「これ、落ちたよ?」
「はい」、と手渡そうとした時に、一枚の写真が滑り落ちた。
ちらっとその写真をみると、そこには俺と父さんとこの女性が写っていた。
「あなたはだあれ?」
彼女の視線は遠くをみていた。
「これ、ぼくと、・・・お父さんだよね?」
それでも、彼女は無表情だった。
ガンガンガン・・・
ビクッとして、俺は写真をポケットにしまいこんだ。
「あけろ!この中にいるのはわかってるんだ。」
ドンと、扉を蹴破る音がした。
「小僧、こっちへこい。」
そういうと、やつらは俺に襲いかかってきた。
「くそ、こいつ。ちょこまかしやがって。どけっ。」
そういうと、男はピストルを出した。
「死ね。」
タンッタンッタンッ・・・
3発の銃声が鳴り響いた。
バタンと体が床に倒れた。
それは、俺ではなく、車椅子の女性だった。。。
「お、お嬢様!?」
遠くから、マイケルと呼ばれた男が叫んでいる。
足を引きずりながら、こちらにむかっていた。
「ば、ばかやろう。なんてことをしてくれたんだ!?」
「し、しかし。」
「急がねば、彼女の生命が終わるまえに、すぐに研究室に運び込むんだ。」
「このガキどうしやす?」
「そんなガキ、どうだっていい。アレはもってないんだろう?」
「はい、そのようで。」
「降りるぞ。ぐずぐずするな。彼女が死ねば、俺たちも全員将軍に消されるんだぞ!!」
やっとことの重大さに気づいた黒服の男たちは、顔が青ざめた。
「くそ、こうなるんだった、ここにくる前に注意しておくべきだった。
まさか、やつの目的はお嬢様の死だったのか?いや、そんなはずはない。ぶつぶつ・・・」
彼らは気づいていなかった。
あのとき、彼女が一滴の涙をこぼしたことを・・・
・・・
・・

おまえは、この記憶を消したかったんだ。
だから、おまえはあの夢の続きをみることができなかった。
記憶の奥深くにしまいこんでいたんだ。
二度と、思い出せないように。
おまえが、エージェント?か。
その仕事をやり始めたのも、おまえの意志ではない。
これは運命なんだ。おまえの、この消したいと思った記憶。
心の奥底では、忘れることができなかった記憶。
いつしか、おまえはこの世界を目指すようになった。
それは、おまえではなく、おまえの心がだ。
無意識にな。。。
おまえは、彼女の一滴の涙を手にした。
そのイシは、おまえの中へと入り込んだ。
あれから、ずっとおまえの体の中で、このときを待っていたんだ。
未来を救うために。
さぁ、そのイシを俺に渡すんだ。
それがあれば、未来は助かるんだ。
「だまされるな!」
意識がふわふわとしている。
「だまされるな!」
遠いところから、俺に投げかけている。
「だまされるな!」
だれ?ずっと昔聞いたことがある声。
とても懐かしい声。

「!?」
「あなたの心に話しかけています。」
俺のイシを奪うために、手をさしのべている。
「れい、聞いて。あなたは、それを渡してはいけません。
あなたがそれを渡せば、未来は終わってしまいます。」
「なにをやっている、さぁ、渡すんだ。」
・・・
「いいですか?あなたのお父様からの言葉です。
『れい、おまえは本当は自由なんだ。だから、自由に生きろ。』と。
もし、あなたが私の言葉を聞き入れてもらえなくても、
それはしょうがないことです。未来なんて、あなたには関係ないこと。
それでも、もし、あなたの意志で、ストップをかけてくれるのなら、
わたしはどんなにうれしいことか。。。」
「おい、なにをしてる?早く渡すんだ。未来を救いたくはないのか?」
・・・
シンクロしていく、記憶の、断片が・・・

れい

俺は、自分の今までの人生なんてどうでもよかった。
いままでの、人生なんて。
でも、俺は生きているんだ。
俺の人生だ。
だから、俺が決める。
これから、俺が決めた道を歩いていくんだ。
だから、このイシは、渡さない。
「おまえに、このイシは、渡さない!!」
「なぜだ!」
俺の強い意志に、手にしていたイシは怪しく輝いていた。
「きさま・・・。ま、まさか。あいつが生きていたのか!?」
彼はあたりを見渡すと、指先を空にきった。
「くそっ。くそっ。」
親指をかみしめている。
キエロ
イシが消えるイメージを。
そして、彼は消えてしまった。

ゆったりとした空間につつまれている。
暖かくもあり、冷たくもあり、濃くもあり。
意識の海に漂っていると、遠くから声が聞こえてきた。
「ありがとう。」
俺は、一つだけ訪ねることにした。
「あのイシは、いったいなんだったんですか?」
・・・
静かに時が過ぎる。
「あれは、月の石。
月の神様が祭られていた、聖なる石のかけら。」
そういうと、声はすーっと体の中に入ってきた。
「あなたは、誰かにとって、いいことをしたのです。」
そういうと、ふっと消えていった。
「誰かのため?!」
空しく声が響いている。
これから先どこにいくのかわからない。
俺は、、、俺は、、、俺は、、、

ピッピッピッ
「そろそろ目を覚ます頃です。」
ふっと目が覚めた。
「よかったわ。やっと目覚めてくれて。
先生ありがとうございます。」
・・・
体が重い。どうして・・・
「あなたはね、事故にあってたのよ。
でも、あなたは運がよかったの。」
白い部屋。ここは、病院?
「それでは、わたしはこのへんで。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
「あの、れいは?」
「れい?なにいってるの。夢でもみてたんじゃないの?」
「え?」
「あ、ゆうちゃんが目覚めたこと、はやくお父さんにも知らせなくちゃ。」
・・・
あれは、夢だったの?
「イッ・・・」
母親?は、電話で頭がいっぱいらしく、気づいていない。
これ、もしかして。。。
私の手の中に、小さなイシがあった。
あの、未来のかけらが。

「大丈夫でしょうね?あのこが自分のこと思い出してしまったりしないでしょうね?」
「手術は成功しました。彼が記憶を思い出すことはないでしょう。」
「彼には知らせたくないですね。」
「そう、彼には知らせたくない。自分が死んだ人間だなんてことは。」

エージェント 完

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