気がつくと、知らない街を歩いていた。
一海くん、今日の水族館の待ち合わせ時間覚えてる?
あぁ。
2時にいつものとこでまってるからね。
そんなやり取りがあったのをなんとなく思い出した。
イルカ可愛かったねー。
そうだな。
いっぱい写真とっちゃった。
デジカメを覗き込みながら、にっこり麻子は微笑んでいる。
キキーッ
気おつけろっ!!
その車は少しバックし、急いでその場から立ち去った。
あぶねぇな。
麻子、大丈夫か?
うん。
そんな代わり映えのない休日。
それが、俺の思い出した記憶。
一海、一海・・・
あれ、俺なんでここにいるんだっけ。
何か大事なことを忘れているような。
でも、大事なことだと、きっと思い出せるだろう。
ふらふらと、街をぶらつきながらそう考えていた。
昔から、たまに記憶が跳んだりすることがある。
だから、これもいつものことなのだ。
そして、急に用事を思い出して、イマここにいる意味に気付く。
あ、田上。
すれ違ったのは、高校時代の同級生の田上だった。
俺は、すぐに振り返り、やつの名を叫んだ。
「おーい、田上。」
しかし、やつは、俺のことなど気がつかない様子で、スタスタと去っていく。
なんだよ、ったく。
ポケットには、携帯電話がはいっていた。
麻子にでも電話するかな。
でも、なぜか電話が通じない。
おっかしーなー。
パンパンと、携帯を叩いてみたが、意味はなかった。
あれ?
気がつくと、いつもの街にいた。
これは、さっき麻子と通った道だよな。
まぁ、いいか。
俺はそのまま家に帰った。
しかし、どうも様子がおかしい。
やけに静まり返っている。
部屋に戻ると、麻子がベッドに横になっていた。
「おい、麻子?」
しかし、麻子は無反応だった。
寝てるのか?
俺は、部屋を出ようとした。
ぐすん
麻子、泣いてるのか?
・・・バタン
車が止まる音がした。
オヤジでも帰ってきたか?
俺は、外へでようとした。
みんなが暗い。
オヤジもいつものように明るい表情をしていない。
みんな、どうしたんだ?
うぅ・・
急に睡魔に襲われた。
気がつくと、周りに人がぞろぞろといる。
なんだよ、俺は眠いんだよ。
見上げると、麻子の姿もあった。
「一海」
しかし、麻子はすぐにその場からいなくなった。
ぬるい滴が、頬に伝い落ちた。
ガタンと音がして、体が動き始めた。
どこかへ連れて行かれるのだろうか?
シャッターが開き、奥へと押し込まれる。
まるで、エックス線をとられるように、全身闇に包まれた。
パチパチと電気が流れ始める。
一瞬、体がふっと浮かぶ感じがした。
そして、そこから自分自身を見下ろした。
そこには、白装束をきたおれ自身が。
体が少しずつ気化して・・・
うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一海、さようなら。